2008年04月13日

『玩具修理者』

 これは非常に好みのテイスト。 作者の別の短編集を以前読んだときには「まあまあ」だったので、他の作品も読もうと思いつつ、またいずれと思っていたのですが、「玩具修理者」「酔歩する男」どちらも引き込まれて、考えて、うーむと唸ってしまう小説でした。
4043470010玩具修理者 (角川ホラー文庫)
小林 泰三
角川書店 1999-04

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「玩具修理者」
 これは作者のデビュー作だそう。ホラーというと、ただ不気味な雰囲気でというものや、結局得体が知れない何かというもの、心理が生み出した幻想というものがありますが、これは違っている。もしかしたら、「幻覚」を見たと言えるのかもしれないけど、少し遠い昔の思い出として語られる、あったと思う、そうした感覚が奇妙に現実感を抱かせます。そんなはずないでしょう、それは物語だから、と言えばおしまいになるというのではない、論理で固めてその実際を「証明」していくような描き方で、普段持っているある種の線引きという感覚が、どのくらい曖昧なものか、今自分が「分かっている」と思っていることが、本当はどれくらい確信できないことになっていくのか、という自身の持つ知覚・感覚が揺らぐところが怖いのです。描写の人体解剖的な部分が怖いというのよりも、心が動揺される感じです。ラストの対話がこれまでの語りが実際何だったのか、余計に考えてしまうという後味が素敵です。

「酔歩する男」
 前置きの部分はどことなくよくありがちな不思議というものかと思いきや、まったく別の方向に話が進んでいく感じがしました。それがとてもいい感じです。そういうことがあるのかもと思えるのが、道具を使わないからなのかと思います。人間の記憶というものと、自分が生きているという感覚をうまく結びつけたSF小説であり、ホラー小説でもある物語。最初のエピソードがラストに繋がっていくあたり、またまたこちらも自分が現在生きていることの確信や、自分の記憶と順序が揺らいでいく不安定感がたまりません。本当に語る男の身になったらというのは非常に怖い。時間モノSF(少々ネタばれ;反転)は改変やその論理に焦点が当たりがちだけど、実際に自由に操れるのではなく、順序が入り混じり、そしてその構築が崩れていくというのは恐怖。

 というわけで、もう少し小林泰三の本を読みたいと思うところです。
posted by kmy at 14:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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