2008年02月24日

『銀座八丁』『雪の話』他

 今年に入ってから翻訳物を読み、ハリー・ポッター7巻を読み返していたのですが、無性に「日本」が恋しくなり、何でもいいから家にあった本を読むことにしました。それが武田麟太郎。
 古い文学全集の1冊で、『日本三文オペラ』『銀座八丁』『一の酉』『雪の話』『大凶の籤』『心境』が収録されていました。
 どの作品も昭和初期に生きる人々の風俗が思い浮かぶように描かれていて、この時代に地下鉄があったんだ、とか、カフェーの女給にバアテンと、意外に「現代」なんだなあなんて思うことしきり。下宿屋の様子なんかは今とはもちろん違うけども、それでもかつてあった日本の姿、自分が生まれる前に生きていた人々の様子なんかにぐっと近づいてきて、面白いものです。外国の小説だと、やはり一定の距離感があって、現代でも「外国」というのを感じますが、古くても日本の風俗がなんとなく想像でき、ああ、自分は日本人だなあと感じるものです。
 『日本三文オペラ』『銀座八丁』では、「あずまやアパート」の住人、酒場「ロオトンヌ」という場所に出入りする人々の姿を捉えたもので、同じ場所に集うそれぞれに思惑あり、生活あり、という小説です。ブレヒトの『三文オペラ』を模して書かれたようですが、味わいは井原西鶴に近いと解説にありましが、ブレヒトは読んだことがありませんが、興味が沸きました。でも、日本という舞台がいいんだろうな、と感じます。この古い時代の風景が結構好きなのです。あまりきれいすぎないところが。

 『雪の話』と『心境』はある種の恋愛関係のようなものを語った小説です。
 『雪の話』は大雪で嫁入りの峠越えが出来なくなり、春まで無理だというその状況の中、途中で休ませてもらった家で嫁にもらいたいという申し出があり、それを承諾したという民話のような話を聞いてきた男が自分の妻にその話を語って聞かせるのです。その男と妻が結婚したいきさつは妻の恋人がニューヨークへ赴任し、家族の反対にあって結婚できなかったため、その恋人の友人であった男が妻にもらうことになり、という自身の状況を重ねます。男と女でこの嫁入りの話に関しての思いと反応が異なるのですが、短いながらに印象に残る話です。
 『心境』は戦争帰りの兵隊が家族と地下鉄に乗り合わせているところを見た岩倉という男が、その家族の今日の宴や心境を想像しながら、友人堂本のことに想いを馳せるという小説で、堂本は出征前に婚約した女がいるといい、たびたび手紙でその話を知らせてきているのだが、果たして女の気持ちとはというのを岩倉が間で思い巡らせている小説です。男と女の行き違い、それを知る友人の心うちなどが伝わってきて、なかなか気に入った小説です。
 

 あまり武田麟太郎は読まれていない印象を受けましたが、古い小説の言い回しや漢字の使い方なんかが妙にしっくりきます。ということで、しばらく古い小説を読もうかな、と思うこのごろ。

 現在入手可能なのはこちら。中身が少々違います。
4061982192日本三文オペラ―武田麟太郎作品選 (講談社文芸文庫)
武田 麟太郎
講談社 2000-07

by G-Tools


 青空文庫でも読めます。印刷しないと読みにくいんですよね、WEBって。
青空文庫:武田麟太郎
「一の酉」「釜ヶ崎」「現代詩」「大凶の籤」「日本三文オペラ」「反逆の呂律」「落語家たち」があります。
posted by kmy at 17:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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