2008年01月21日

『すべての終わりの始まり』

 物語の背景はあまり変わったところがなく、ありそうな日常とありそうな街、村などですが、ここで語る人、語られる人が一癖ありそうな「変」な人が多いと感じる短編の数々。中には「?」といううまく飲み込めなかった話があるものの、かなりいい味です。好きです、こういうの。
 作者が85歳を超えてなお現役というだけあって、物語の登場人物の年齢もかなり高いものが多くて、その設定がまたわたし好きです。年とっていかに自己を認識し捉えるかというところが描かれているように感じます。自己の存在を再認識させるために出てくる第三者が重要で(人間とは限りませんが)、この関係によって自分自身を新たに構築する、見出すように思えます。主人公の「わたし」が若くないから面白い効果が出ているのだと思います。挑戦も冒険も恋も、奇妙にずれた感じです。希望に満ち満ちてというのとは逆で、いまさらと思わせつつ、その行方が気になるという小説です。
4336048401すべての終わりの始まり (短篇小説の快楽)
畔柳 和代
国書刊行会 2007-05

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「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」
 amazonのなか身検索で冒頭が読めるのですけど、すごーく変な状況で引き込まれる〜。「私」が似たような容姿の「あなた」の家に気づかれず屋根裏に住み着くのですが、その似た「あなた」に対していろいろ変なことをするのです。で、その「私」は誰でどうなっちゃうんだ?と思うのですが、それは結局よく分からない(ネタばれ?)というところがいいのかもしれない。覗き見的な部分とロールプレイングゲーム的な仕掛けで「あなた」を見ている「私」が面白い。自己を投影させた「あなた」を試したり変革させたり仕組んだりさせて、途中ででもそれは「私」のほうがそうあるべきと思っているという自己と他者の組み合わせが妙な感覚になる。「あなた」と「わたし」は交換可能な一対のような感じになっていくのですが、そうあっさりとは片付けないのがこの作者のやり方なのかなあ。あなた」を通して「私」にフィードバックさせるそういう存在というのでしょうか。見つかったらどうしようとかいう感じはまったくありません。「あなた」はどうなるの?という目で結構どきどきしながら読めます。お気に入り。

「ウォーターマスター」
 これは恋物語ですね。村の水を管理する役割「ウォーターマスター」。超自然的な力を持っていて、村の誰もが尊敬しつつも水がなくなると不信感を抱き、という存在。登場人物の年齢はやや高めですが、ちょっといい話です。分かりやすいとも言う。

「ジョーンズ夫人」
 結婚できなかった姉妹が出てくる物語。毎晩奇妙な光が見え、りんごの木が荒らされている。その正体を見つけた妹の思惑と計画、そして結末という内容なのです。変な話だけどかなりよく消化できる気がします。

「石造りの円形図書館」
 遺跡を発掘し続け、さまざまな石を見つけて左手のなすままに文字を書き連ねる。その文字は図書館の書物を再現しているはずだと思いながら意味を汲み取っていき、さらに発掘を続け、というお話なのです。登場人物がもし若い少女だったら、ここからファンタジーは飛躍していきそうなのですが、主人公は老女であり、老女の娘たちはおそらく少しおかしくなってきたのだと考えているらしいことや、「ホーム」に入れることを考えているらしいことが触れられます。この生きがいともいえる空想的発掘と老女との組み合わせが面白い感じを生み出しているように思います。


 時間を置いて読み返したい短編集でした。作品リストはこちら
posted by kmy at 15:58| Comment(4) | TrackBack(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これは面白い短編集でしたねえ。
特に冒頭の『私はあなたと…』なんて、ひとはいかに見たいものだけ見て見ないふりができることは見ずに生活しているものなのかと思いました。
ほんとうはそこに異変があると気づいていながら、それを認めたくないのでしょう。
そのくらい自分自身の「いつもと変わりない穏やかなはずの」生活に固執しているというのか…。

ケリー・リンクがアンソロジーにも必ず入れる作家です。ほかの作品も読んでみたいですね。
Posted by ヤヤー at 2008年01月22日 21:33
ヤヤーさん♪
ケリー・リンクに続き面白い本でした。
冒頭の短編は面白かったですね〜。不気味でもなく、ただただ、屋根裏のわたしの気分になります。見つかったらどうしようということも全然なく。
日常をどう見るか、どう変化させるかというところに目が向きます。それがどうであれ、日々の選択が自己を作っていくんだなあと感じる作品が多かったように思います。

他の作品も読んでみたいですが、なかなか入手困難な感じです。
Posted by kmy at 2008年01月23日 13:27
kmyさんの記事にひかれて、ついに買ってしまいました!昨日届いたので、まだ読んでいないのですが、週末読むのが楽しみです。
国書刊行会の本を買うのは久しぶりでした。
この辺りには売っていないから・・・。
相変わらず高いけど、二十年以上前からこれくらいしたなあ。本ってあまり値上げしないのね、と思いました。

本に挟まっていたリーフレットの「短編小説の快楽 全五巻」を見て、おお、面白そうな本ばかり!と興奮しました。
その中で読んだことがあったのは、ビオイ=カサーレスの「パウリーナの思い出に」のみ。
ラテンアメリカ文学にはまっていた時です。

リーフレットを読んでいて、今度はウィリアム・トレヴァーの「聖母の贈り物」が欲しくなってしまいました!!
でも、まだ読んでない本もたくさんあるし、とりあえず「すべての終わりの・・」を読み終わるまで我慢我慢!することにしました。
kmyさん、もしこちらも読んでいたら、またいつか記事にしてください!なんて・・・。
Posted by Helenaヘレナ at 2008年01月25日 14:33
ヘレナさん♪
購入されたのですね、うらやましいなあ〜。
わたしは図書館で買いました。初めて読む作家だと一応図書館、ということにしています。
買うと積読になりがちなので(汗)
しかも結構値段張りますよね。
この本はいずれ買いたいと思っていますが。
「短編小説の快楽」のシリーズは面白そうで気になっていますが、近くの図書館にはまったく入っていません(涙)
ということで県立図書館から貸し出してもらいましたが、気軽に借りれないのが残念です。
いずれ「聖母」も読みたいと思っています。
ヘレナさんのほうが先になるかもしれませんね。


ラテンアメリカには本当に疎く、ボルヘスも買ったきり(文庫)、」積読状態です。
ヘレナさんを見習って、ラテンアメリカも、と思いつつ(昨年から)なかなか進みません。
読もう読みたい本はたくさんあるけれども、うまく読み時が合わないと手に取れないものです。
最近は短編ばかり読んでいるので、少し長めのものを読みたい気分です。
Posted by kmy at 2008年01月25日 17:37
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