2008年01月14日

『マジック・フォー・ビギナーズ』

 ようやく読了、というケリー・リンクの短編集『マジック・フォー・ビギナーズ』。物語がどういう方向に進んでいくのか全然わからなくなり、あれ、今どこにいるんだろう?という感覚になってきました。
4152088397マジック・フォー・ビギナーズ (プラチナ・ファンタジイ)
柴田 元幸
早川書房 2007-07

by G-Tools



思いつくまま感想を書いておきます。
「妖精のハンドバック」
比較的分かりやすい物語。「分かる」気がします。納得できるというか、物語のような感じがします。他の作品は、いったいこれはなんだったんだろう?という感じになるのも多いのです。主人公は「信じないで」というけれど、そういうものがあるかもしれないと思わせます。犬皮のハンドバックの絵が妙にリアルに感じられます。すぐ手の届くところにあるファンタジックな世界、そこに関連しているらしい身内、そして消えてしまったボーイフレンド。こことどこかを結ぶ、ありそうな世界、でも消えてしまった世界。ハンドバックの中というところに不思議が集約されているので、それさえ理解できれば、そこにいつでも入っていけそうに思えるのです。しかし、それが今ない、というのがポイントなのかなあと思います。


「ザ・ホルトラク」
聞こ見ゆる深淵(というなにか実体はよく分からないもの)の近くに建つコンビニの話。ゾンビが買い物にやってくる。どうしてとか、どうなる、とかそういうことが全然わかりません。ゾンビがやってきて、エリックが気になるチャーリーという女性が犬を連れてやってくる。どこに行き着くのか、どこへ行き着こうとしているのか、コンビニ、ゾンビ、バトゥ、エリック、チャーリー、どのひとつも先がよくわからなくどうなるのか、どうなったのかもわからない。うまくいくのか、いっているのか。

「いくつかのゾンビ不測事態対応策」
 これは面白い♪ なんとなくパーティーに入り込むこと、刑務所に入るいきさつのエピソードの不思議さと、母親のブティックで売っている石鹸。でも簡単には納得させずに終わります。そう来るか、という感じで終わらせてしまうのがこの作者なのかなあ。常に考えているゾンビ対応策が好きです。


「マジック・フォー・ビギナーズ」
 またまた納得できるような世界に収まらずに物語が進み、進み、終わるのだけど、登場人物たち少年2人、少女3人をめぐる関係と、不定期に放映される謎のテレビドラマ「図書館」とそのドラマのキャラクター、作家の父親、司書の母親、叔母の遺産のウェディング・チャペルと電話ボックス。混ざり合って行き着く先で謎が解けるわけもなく、ただただ、読み進めてしまう。なにか分かると思えば、結局何も分からないような。



 どんどん引き込まれるような感じで読んでいると、急に突き放されるような。面白い部分あり、訳のわからない部分(多数)あり。背景となる世界は奇妙なものではありますが、そこに出てくる人物たちは現実に生き、人間関係に悩んでいます。うまくつなぎとめて生きていきたいと思いつつ、思うようにはいかない。自分と誰かを結ぶうまいやり方が見つからない、そういうものが織り込まれています。

収録作品
「妖精のハンドバック」
「ザ・ホルトラク」
「大砲」
「石の動物」
「猫の皮」
「いくつかのゾンビ不測事態対応策」
「大いなる離婚」
「マジック・フォー・ビギナーズ」
「しばしの沈黙」
posted by kmy at 12:41| Comment(4) | TrackBack(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おぉ、読まれましたか。
キャロル・エムシュウィラーもそうですが、奇妙な世界なのにそれはわたしたちが気づかないだけですぐそこに存在しているのだと思わせる何かがあるのですよ。
ケリー・リンクのほうがまだ作り話っぽいので疑いながらも楽しめます。

表題作と『妖精のハンドバッグ』は好きですねえ。
ハンドバッグや図書館、身近な小道具や場所の使い方が巧みです。
表紙がまたこころ惹かれる装幀で、それで図書館から借りる気になったのでした。わたしには「当たり」でした♪
Posted by ヤヤー at 2008年01月14日 22:28
ヤヤーさん♪
やっと読了です。結構「むむっ?」と感じながら元へ戻ったりした部分があるので、時間かかりました。
小物の使い方、本当にうまいですね。
「マジック・フォー・ビギナーズ」は友人に勧めてたい要素がかなりあるのですが、それでも物語は収束しないでより拡散して行く方向へ終わってしまうので、どうしようかな〜と思っているところです。
あのTV番組を中心とした10代の少年少女たちの関係とか、かなりいいのですが。
なにかが実際に「本当」か「嘘」かという単純に2分に分けれることって不可能じゃないかなあと時々思います。
全てをはっきりさせるのではなく、曖昧であること、どちらにも属しどちらにも属さないことはもっと大事に見てもいいように感じます、読んでいて。

キャロル・エムシュウィラーもこれから読みます♪
借りてきました。

Posted by kmy at 2008年01月15日 13:17
何だかとても不思議な世界らしい、という感じで、
感想を読んでいて気になってきてしまいました。
それぞれのタイトルも素敵ですし、何より表紙が!

本屋で見たら思わず買ってしまいそうな表紙です。
あの不思議な感じ!やっぱり本の表紙の力は大きいですね!

少し気になった一冊でした♪
Posted by みずき at 2008年01月15日 20:40
みずきさん♪
表紙の電話ボックスの絵はとても惹き込まれます。
ものすごく現代のアメリカとファンタジー的な不可思議といえる世界が続いているような感じです。
ここからは現実的でここから先は不思議とは割り切れないような、そういう場所でなにかを求めているような、失っていくような、そういう人間が登場しています。
だいたいが終わった感を感じない物語ですが、「妖精のハンドバック」と「マジック・フォー・ビギナーズ」のその世界、人物たちはみずきさんの好みに入りそうな気がします。
見かけたらぜひ。
Posted by kmy at 2008年01月16日 13:04
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