2005年09月29日

9月に咲く花 『熊の火』(安房直子作)

 山の中に住んでいるので、熊が出ることがあるそうです。実際にわたしは出会ったことはありませんが、子どもが通る道でも以前小熊が目撃されたとか。だから小学生たちはかばんに熊よけの鈴をつけている子が多いようです。確かに、この山の竹やぶの向こうからかさかさと音をたてて出てきそうな気がします。そんな想像はちょっとだけ楽しくもあり、しかし、実際本当に遭遇したらかなり恐ろしいような気がします。本当にこの近くの山にはツキノワグマがいるんだ。今までこれほどの田舎に住んだことはなかったので、熊というのはとても遠い物語の中だけの存在していました。子どものころから好きだったのだけど、今見えている風景はこの童話をよりいっそう身近に感じさせます。今の季節、冬ごもり前の熊たちはどこにいるのだろう? 9月のこの時期に咲くあの花を見ながら、思い出す童話、『熊の火』。
4035409405まよいこんだ異界の話 (安房直子コレクション)
安房 直子
偕成社 2004-03

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『安房直子コレクション 6』 安房 直子作 偕成社
『童話集「銀のくじゃく」』安房直子作 筑摩書房
に収録されている作品。『銀のくじゃく』はもっとも好きな童話集です。

(この先内容に触れます)

 山で遭難した小森さんが出会ったたばこを吸う熊。熊の世界にも競争があります。その競争に敗れた親娘熊が見つけた楽園へと小森さんは連れられていき、娘熊をお嫁さんにもらいます。そこで熊として平穏な暮らしをするのですが、小森さんはその暮らしの中、外の世界に行って自分を試したいような気持ちに駆られ、外へ出て見るのです。(楽園は火山の中にあり、たばこが楽園と外界を繋ぐ重要なアイテムになっているところも面白いのですが)結局、小森さんは熊の世界へ戻れなかったのです。
 人間も「楽園」を求めています。苦労せずに生活ができ、心配事のない世界。そんな世界に身を置いてみると、楽園では得られないものを求めるようになる――しかし元の世界へ戻ってみると、一旗あげるとか、そういう気持ちはすっかり失せてしまった小森さんです。熊の楽園ではずっと暮らすことができない――そんな気持ちを感じていたようです。楽して暮らしたい、そう思うことはあります。生きることって大変だけど、日々の暮らしの中で自分が選び取っていくもの、向かっていくもの、そういう手ごたえがなければ、生きていることってどれほどのものなのだろうか、と感じるのではと思います。
 一番最後にお嫁さんの熊が尋ねてくるエピソードで印象に残るのが赤いまんじゅしゃげの花。まんじゅしゃげの花は別名彼岸花とも呼ばれ、鮮やかな赤い花が秋の彼岸、ちょうど今ごろに咲きます。田舎のあぜ道にもいくつか固まってまんじゅしゃげが咲き出しました。まんじゅしゃげの花は一週間くらいで急に咲きそろうそうです。そんな花が急に咲きそろう様子を見ながら安房さんはこの物語を書いたのではないか、そんな気がしてきます。お嫁さんの熊が尋ねて来た翌日に咲き誇ったまんじゅしゃげの花の道はいつまで経っても色あせずに心の中で咲いています。
posted by kmy at 17:08| Comment(2) | TrackBack(0) | 安房直子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
kmyさん、こんにちは。
kmyさんがハリー・ポッターのサイトの他にこちらのブログも開設していらっしゃるとは知りませんでした。
楽しみが一つ増えました。

お好きな作家の中に安房直子さんが入っていてびっくりしました。
私も中学生のころから大好きなんです。
自分のサイトの自己紹介に書こうかとも思ったのですが、好きな作家を絞れなかったので書きませんでした。

「熊の火」は私も大好きな作品です。「銀の孔雀」の方を持っています。
小森さんが訪ねてきたお嫁さんに、子供たちのことを尋ねる様子が切なかったです。
山を焼いた火がまんじゅしゃげだったという件には驚かされました。見たわけではないのにまるで見たかのような記憶が残っています。

安房直子さんのような童話を書いてみたくて何度か挑戦して投稿してみたことがあります。玉砕しましたが。
安房直子さんの作品を娘にも勧めたら、
たちまち虜になり、ちょっと嬉しく思っています。
Posted by 二尋 at 2005年10月11日 20:48
二尋さん、ようこそ♪
ハリーと少し距離を置いたものを以前から作ってみたかったのが、今年ようやく実現したというのがこのブログです。(ということでこっそりやっています)
二尋さんも安房直子さんファンというのがとても嬉しいです。まんじゅしゃげの花の道は見てきたような鮮やかな印象を残しますよね。あぜ道に咲いているのを見ると、あの物語の風景はもっともっと道に連なって咲いていると思えてしまいます。
娘さん(がいるとは思っていなくて意外です)と同じものを読めるというのはいいですよね。
うちの娘も図書館で借りた「コレクション」を気に入っていましたが、園児が安房さん読むんだとちょっと驚きました。

安房さんの作品はハッピーエンドではない作品も多く、もの悲しさや寂しさ、せつなさ、という感情を抱かせることが多いのですが、それが人を惹きつけるのかもと思えてしまいます。まだ語りたい作品はいくつもありますので、のんびりと。
コメントありがとうございました。
Posted by kmy at 2005年10月12日 09:56
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