2005年09月26日

『チョコレート工場の秘密』その2――もっとも好きだったあの場面

 『チョコレート工場の秘密』、タイトルの「秘密」という部分、子ども心に惹かれるものがありました。原題『チャーリーとチョコレート工場』よりも素敵です。この物語のチョコレート工場は鮮やかで奇怪で不思議なところ。一度行ってみたいと思いつつ、わたしはチョコレート工場へ入るための「金色の券」が当たるまでのの部分のほうが好きです。

(この後ネタばれ)

 チャーリーは貧乏でキャベツの水っぽいスープしか食べることができません。年に一度のお楽しみ、誕生日のプレゼントがワンカのチョコレートだった、というのはもはや有名な話ですが、この誕生日のチョコレートを少しずつ大事に食べる、という部分に強く惹きつけられました。子どものころ、100円玉をもらって近所のお菓子屋さんに行き、選ぶのは駄菓子ではなくわたしもチョコレートでした。買うときの気分はまさにチャーリーでした。金色の券が入っていたらどうしようなんていうありえない想像をしながら、銀紙をそっと破って区切られたチョコレートを数えてみる。チョコレートは16個くらいに区切られていた気がします。一ヶ月以上もたせるには一日半かけくらいかな。子どものころチョコレートを少しずつかじっては味わい、チャーリー気分に浸っていた気がします。しかし、そんな想像も2日もすると場面が切り替わります。拾ったお金で買って一気に食べたときのおいしさと幸せな気分になって残りをいちどに食べてしまう、そんなこともしていました。その金色の券が当たるまでの期待と失望の繰り返しの場面ばかりは本当によく覚えています。
 誕生日に買ったたった一枚のチョコレートがきっと当たるんだろう、と思えば当たらず、おじいさんのへそくりで買ったチョコもはずれ。でも、きっと当たる、当たるよ、チャーリーが当てるよと期待と不安の混じった気持ちは今でも忘れないものです。その金色の券はチョコレートの大きさからしてこれくらい? でもこんなにびっしり字が書いてあるならもう少し大きい?など、金色の薄い紙の想像もとても楽しいものでした。
 失業したお父さん、寒い冬の凍った道路で拾った銀貨、それはまさに天からの贈り物、と感じたチャーリー! 拾ったお金、決してネコババするつもりなんかなかった、というのは本を読むと感じます。寒くておなかがすいてたまらない貧乏なチャーリーにとっての雪に埋まったお金はまさにチャーリーのためにあった、と思えてしまいます。チャーリーはただ、チョコレートを食べる幸せのためにチョコレートを買いにいったのであって、決して金色の券を当てるためではありませんでした。ここが他の子どもたちと違うとわたしは思っています。
 もちろん、チャーリーほどの貧乏環境を体験することは、まずないと思います。それでも、本の世界に浸りきっていた子どものころの記憶は忘れません。おなかが空いてたまらないひもじさ、そのときの何よりも素敵なチョコレートの匂いと味、少しずつ食べる楽しみ――ずっと心の中に残っています。
posted by kmy at 18:10| Comment(9) | TrackBack(2) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ああこれわかります。
よく自分も本とかマンガの主人公になったつもりで真似しました(笑)。
わたしが小学校高学年になった頃、サンリオのキャラクターで"Patty & Gimmy"っていうのが流行って、森永ハイクラウンキャラメルにもなったんですよ。それについてるおまけが欲しくて、食べもしないキャラメルを毎日買って、母にこっぴどく怒られた記憶があります。
『チョコレート工場の秘密』これはタイトルの勝利ですよね。
旧訳買っとけばよかった。あの表紙好きなんです。お気に入りの古書店、久しぶりに波乗りしてみようかな。
Posted by ヤヤー at 2005年09月26日 21:51
こんばんは♪kmyさんのこの本に対しての愛情を深く感じます(笑)。でも、券が当たるまでの過程の方が好き、というのは同感です。いつ当たるか、いつ当たるかってドキドキしますよね!
この本を読んでいるとチョコレートが食べたくなります(笑)。映画はまだ観てないんですが、今日は思わず板チョコを買ってしまいました(笑)。
旧訳版、やっぱりもう絶版でしかも高値がついているんですね!すごい。チャーリーが表紙の旧訳版単行本、映画公開直前に慌てて買っておいて良かったなあ、と改めて思っています。
Posted by みずき at 2005年09月26日 22:25
ヤヤーさん
キャラメルのおまけのパティ&ジミィ、なんとなく記憶にあります。姉が好きでした。ハイクラウンというキャラメルも何だか懐かしい感じがします。
旧訳を読んだ世代よりも、新訳が浸透してしまうほうがあっという間なのでしょうか。ちょっと寂しい気もします。
古書店で見つかるといいですね。

みずきさん
子どものころに好きだった本というのはずっと忘れないものだな、と改めて感じます。今頃になってやっぱり、と集めてしまった本もありますし。この本は文庫が出たときに迷わず買ってずっと引越ししても売らずに捨てずに残っています。
新訳はいつでも読めると思うとなかなか手にとらないままですが、読み比べようと思っています。

ついでに……
9月ってチョコレートの季節なんですよね。9月といえばチョコレート新製品の季節で、20代のころはあれこれ試して楽しみました。定番になったものもあるけども、結局は消えていってしまった気がします。やっぱりいろいろ比べてみても板チョコがいちばんかな、と思います。(特にガーナが好きです)
Posted by kmy at 2005年09月27日 10:21
映画のお陰で私の数十年来の愛読書がにわかに世間で注目されて、嬉しいような、くやしいような(笑)複雑な気分の今日この頃です。ブログでもあちこちでこの本の話題が出ていますね。私は一度ブックバトンでこの本について触れているのですが、かなりのお気に入りです。
ただし、私のお気に入りとは今現在私の手元にある田村さん訳のハードカバーです。十数年前にどこかの古書市で買った物で、奥付に「昭和55年 初版8刷」とあります。定価980円。いまやレアものですね(^^;) ちなみに気になる表紙はカバーも中身もkmyさんがお持ちの物と同じ絵で、ワンカ氏が中央でちゃんとチャーリーも映っています。

さて私のお気に入りのシーンも、kmyさんと同様にチャーリーが当たり券を手に入れられるかどうかハラハラドキドキするあたりです。工場に入ってからの奇抜な展開に興味を惹きつけられがちな本ですが、年を経て何度も読み返すうちに、冒頭の貧しいながらも精一杯に孫を息子を愛する大人たちの姿が痛いほど分かるようになり、切なくなるのです。特に心が温まるのは、誕生日のなけなしの一枚をめぐって、チャーリーの失望を和らげようとそれぞれに気遣いを見せる優しい大人達。家族って素敵だなぁと、ウルウルしてしまいます。

新訳の方は未読なのですが、あまり良い噂を聞きませんね…。一度読んでみないことにはなんとも言えませんが、私は田村さんの訳に馴染んでいるのでどっちみち違和感は感じることになるでしょう。映画の方は先に見た夫が「原作を知らなくても楽しめた」と言っていたので、あまり先入観を持たずに観てみようと思っています。
Posted by えほんうるふ at 2005年10月01日 00:08
えほんうるふさん、コメントありがとうございます。オトナノトモの記事中で『チョコレート工場の秘密』に触れられていてたのもチェックしています。
ハードカバーをお持ちなんですね。まさに、わたしが読んだ頃のものなのでしょう。カバーもやっぱりあの絵だったのだとわかって、ほっとしました。昔から緑色のカバーではなかったのですね。実は現在書店サイトで出ている絵を一度も見たことがなかったので……自分で持っている本は図書館で探したりしませんから。もしかして、子どものころに図書館で借りたときにはカバーはなかったのかも?などと考えていました。
こうしてお話を伺うと、ひょっとして金色の券が当たるまでのエピソードという部分に惹かれているファンも多かったのかな(だといいなぁ)と思えてしまいます。工場のエピソードは視覚的ですが、金色の券が当たるまでのエピソードは感覚に訴えるから?なのでしょうか。貧乏や空腹、寒さを感じ、当たった時の喜びを一緒になって感じていた気がします。工場はまさに「見学」、お客様という感じで新奇なものへの驚きはありますが、チャーリーは何かを実感したわけではないような気がします。
新訳の言葉遊び部分の訳などは好き好きがあるようですね。いっそのこと原書を買ったほうがいいのかもしれませんが、訳語の違いがどう出るかという興味もあります。立ち読みしたところ、「キョロッと見まわす四角いお菓子」の訳は変わっていました。これだと英文の意味を汲んでいるとは言いがたいようですが、忘れられない名前です。

Posted by kmy at 2005年10月01日 16:49
再びお邪魔します。ようやく映画を見に行くことができまして、思いのたけを記事にすることができました。書いているウチにどんどん長くなってしまって、この物語に対する自分の思い入れの強さを改めて思い知りました(笑)。そういえば、「キョロッと見まわす四角いお菓子」は映画には出てきませんでした。残念!
Posted by えほんうるふ at 2005年10月11日 15:19
えほんうるふさん、映画鑑賞レポート楽しく拝見しました。久しぶりに懐かしい表紙の『チョコレート工場』を見れたのも嬉しかったです。
わたしも書いているうちにまだまだ書き足りない気がしてしまいます。
映画、DVD化を楽しみに待っております。
Posted by kmy at 2005年10月12日 09:36
kmyさん、はじめまして!
えほんうるふさんのところからやってきました、
<本棚からしあわせを運ぶ>本棚の魔女さんです。(^^) ちなみに、“bonny and blithe, and good and gay”(マザーグース)に生まれつくという日曜日生まれです。

チョコレート工場そのものに感情移入していたため、後半のほうが好きな魔女さんですが、だいじにチョコレートを味わいながら、チャーリーの氣持ちになる、ということ、すごくよくわかります。いくつになっても、あんなときめき、大切に持ち続けたいですね。
Posted by 本棚の魔女 at 2005年10月13日 22:49
本棚の魔女さん、はじめまして。コメントありがとうございます。"Thursday's child has far to go"の木曜日生まれのkmyです。日曜日ってなんだか特別ですね。

チョコレート工場ではおとなしくしていなくては、と思いつつ、バイオレットのガムを食べて見たかった子どもです。ガムって嫌いなんですが、味が変わりつつ食感も感じるらしいあたりが非常に気になっていました。チョコレート工場で感じた気持ちも大切にしまっておきたいと思っています。
Posted by kmy at 2005年10月14日 10:25
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