2007年11月29日

『食糧棚』

 食べるというのは人間が生きていくのには必要な行為である。食べるという行為により人間が得るものは単なる肉体組成に必要な成分と栄養だけではなく、その行為がもたらす精神的な作用も含まれているものなのだ、と自分が口に入れるものの先に「感じる」ものが描かれている超短編の数々。全部で64編。一文からなるもの、長くて数ページという作品を読み続けていくと、時々消化不良に陥りますので、お気をつけて!
4560047464食糧棚
Jim Crace 渡辺 佐智江
白水社 2002-05

by G-Tools



 どれもこれも短い話なので、あらすじを書く必要はないのですが、美味しそうなものはほとんど出てこないと言っていいでしょう。それでも「食べる」ということに含まれる人間心理の細部が吸収されて、時々気分が悪くなるかも。悪意、禁、事故、恥、故意、皮肉、想像。ひとつの食べ物に対する個人的な感覚と空想。そういうものが混ざり合って、独特な雰囲気を出しています。カレー、魚、チーズというありふれた食べ物が「あのカレー」「あの魚」「あのチーズ」ときわめて個人的なものに変わる瞬間を切り取って描いているような感じです。次から次へと語られます。あのレストランのスープは、あの結婚式の料理はね、と。そして誰もがおそらく思い出す、ひとつやふたつ、いやもっとあるだろうある食べ物に関する独特な記憶。美味しいというのではなく、その食べ物から連想される刺すような、熱くなるような、そんな記憶。

 にんじんの話と慈善行為にあふれた町の話、オレンジの話と食事に呼ばれることについての提案の話が好きです。ショート・ショートのようなオチがあるわけではないのですが、この短さに詰め込まれた濃い味、もう一度なめてみようか、という気分になる短編ばかりでした。
この記事へのコメント
食べ物にまつわる話、好きです。
すぐに思いつくのは、村上龍さんの「料理小説集」くらいですが。
学校でも、おいしい食べ物が出てくる本、ということで、本来のストーリーとかテーマとかと全く関係ないところで、本を紹介したりしています。
この本とても興味深いです!
いつも、どこからこんな楽しい本をみつけていらっしゃるのですか?
Posted by Helenaヘレナ at 2007年12月07日 15:54
ヘレナさん♪
興味を持ってもらってうれしいです。
食べるという行為、食べ物、その状況の描写というのは印象に残るもので、それは基本的な欲求だからなのでしょうか。
それにしてもこの本にはおいしそうなものは出てこないのですが、食べ物がある個人的な記憶に重要な要因を落としているときがある、そういう気持ちになります。かなりきわものも多いです。

この本は古本屋さんのHoneyBeeBrand(みつばち印)で見て、読みた〜いと思いました。
以前に本を買ったことがあるのですが、書評が面白くまとめられていて、時々見に来ます。
変わった本が連鎖のように紹介されているので面白いです。
http://www22.ocn.ne.jp/~honey/

Posted by kmy at 2007年12月08日 11:25
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