2005年08月29日

『ノルウェイの森』(村上春樹作)

 何といっていいか……もうとても心に染み透ることばの数々。そういう本です。
4062035154ノルウェイの森〈上〉
村上 春樹
講談社 1987-09

by G-Tools

4062035162ノルウェイの森〈下〉
村上 春樹
講談社 1987-09

by G-Tools
 この物語がどう響く、というのはきっとうまくいえないと思う。生きているときには、自分のことを理解してもらいたいと思うことがある、だけど、本当にそうなのかどうなのか、自分のことは自分でもよくわからない。自分という存在の行動に何か意味があるのか、意味をつけることが「無意味」なのか、そういう矛盾の中でどうにか自分は「生きて」いるんだと感じます。あるひとつのことを正しいとか、間違っているとか、単純に二分できない、そういうことも感じます。思うことは多々あるのに、それを表現して誰かに伝えることが全てではないと感じさせます。自分の中にとどめ置いてしまう、そういう気持ちになります。

 1970年頃の大学の様子なので、生まれる前のことなのに、なぜか自分の学生時代を思い出させて懐かしいような気持ちを感じました。描かれている東京の風景や授業から自分がすっかり忘れていたことを思い出させたりして(東京に住んだことないんですけど)……そういえば、ギリシャ悲劇についての授業を取ったことがあるとか、学生時代に友人を見舞った病院はどこだっけ、とかちょっとしたことで特に何か感銘を受けたことでもないんですけど。ただ、意識的に思い出すことのないことをふっと思い出せる部分がいくつかあって、その意味でも気になる小説です。
 記憶を辿ること、鮮明に思い出すこと、ずっと後になってなぞったときの感覚や、そのことを明らかにしていくこと。読みながら自分のもとに寄せてくる感じがします。それがいいとか、悪いとかではなく、年月が過ぎてやっと自分の中の一部として認識できる、そういう感覚を得たような小説です。不思議なもので「作った」感じが全然しなかったんです。こういうことがあって、それを思い出して、という気持ちになってしまって。それだけ物語に入り込んでしまったのかもしれません。



 
 


posted by kmy at 10:46| Comment(2) | TrackBack(1) | 村上春樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。TBさせていただきました。以前「憂いの篩」にコメントさせていただいたNicoです。こちらのブログの存在を知ってから、時々拝見しています。

「ノルウェイの森」は大好きな小説です。なので他の方がこの作品を読んでどう感じたかにすごく興味があります。私は主人公と直子に感情移入してしまい、あまりこの作品を客観的に見る事が出来ないのですが、kmyさんの、
>あるひとつのことを正しいとか、間違っているとか、単純に二分できない、そういうことも感じます。
という文章を読んで、この小説が何故自分の心に響いたのか理解出来た気がしました。私は物事にジャッジをくだしたがる世間や人々が理解出来なくて、だから、すべての物事を正しいとか正しくないとかで区別しないこの小説の雰囲気が好きなのかなあと。
「作った」感じがしないというのも同感でした。それゆえにすっと心に入ってきて。こういう感じって、なかなか出せるものじゃないと思います。
Posted by Nico at 2007年01月04日 23:05
こんにちは、Nicoさん。こちらこそ、Wonderwallは拝読させていただいています。映画にはかなり疎いのですが。
TBありがとうございました。村上春樹氏の小説を読むというのはある自分自身の感情、記憶、気持ちに整理をつけてくれるような感じがします。小説に意味や教訓を求めるものではないと思いました。役に立つとか立たないとか、そういうことから離れて、あるがままに受け入れることで自分を認識しなおせる、そういう気がします。うまく表現できないですが。
ここがこうとかどうとかって言うのではないものを感じます。
Posted by kmy at 2007年01月05日 16:29
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別の世界に住む女の子
Excerpt: 私はよく本を読むけれど、この本ほど何度も読み返した本はない。村上春樹の『ノルウェイの森(上)(下)』(講談社文庫)。文庫本にはお気に入りのブックカバーをつけてある。眠れない夜やふと虚無感に襲われた朝に..
Weblog: Wonderwall
Tracked: 2007-01-03 09:01
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