2005年08月16日

『べにばらホテルのお客』(安房直子作)

4035409502恋人たちの冒険 (安房直子コレクション)
安房 直子
偕成社 2004-03

by G-Tools



 こちらに収録されています。

 「べにばらホテル」――名前を聞いたときからずっと気になっていました。なかなか行く機会に恵まれず、いつか必ず行ってみようと思っていた場所にようやく行ってきたような、そんな読後感を得ました。安房直子さんの描く世界のイメージから、素敵な森の中、おいしい料理のでる、趣味のいい眺めの素敵な客室。動物たちの行きかう世界……そんなことを思い巡らせながら、やっと読むことができました。想像していた以上に素敵なお話でした。
 このお話の主人公「わたし」はなりたての作家。新人賞を受賞後の第一作を書こうと思えば思うほどペンは進んで行きません。環境を変えてみようと森の家に一人で来ているのですが……。
(内容に触れますが、結末には触れないでおきます) 
 作家の「わたし」が作品を書こう書こうと思えば思うほど、思い悩みます。その描写を読んでいると、作家という大仕事ではないにしても、新しい道へ入っていくときの期待よりも不安が膨らんでいる様子を思い起こさせる場面。その気持ちの不安定さの描き方、とても心に染みます。そうした心の動きが内面世界へ入っていくということなのでしょうか。「わたし」は森に出ると青年に会います。その青年こそが今書いている自分の作品の主人公! いつの間にか「わたし」は自分の書こうと思っていた作品のホテル「べにばらホテル」に来てしまうのです。
 そこでの展開の仕方は本当に面白い! 「わたし」が書こうと思っていたお話とはちょっと違っているのです。自分の考えて通り、というのではないあたりが面白いですね。頼りなさそうな青年を手伝っている「彼女」がいたんですが、「わたし」はこんな娘を登場させるつもりはなかった、だからこんなことを思うのです。
(いやだわ。話がだんだんへんな風になってゆく……)」
前掲書 P251 

結構おかしいですね。そして登場人物たちを思い通りに修正しようと、「わたし」はあれこれ画策したりするんです。だから「わたし」は不快感や嫉妬を見せたりしているあたりも気に入っています。
 違和感のない感じで作家の「わたし」が自分の作品に入っていく、というお話の枠はとても面白いですね。作中作というか、二層構造になっている雰囲気は『はてしない物語』を少し思い出させます。「わたし」が作品を書いている、というお話と「わたし」が書いた作品はその先にまだ展開していきそうで、さらに想像していく楽しみを残しつつ結末を迎えたお話でした。

posted by kmy at 16:56| Comment(2) | TrackBack(0) | 安房直子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは!ご無沙汰してます。

「恋人達の冒険」は私も入手して、読みました。

異種どうしの恋愛・・・普通に考えたらありえないんだけど、安房さんの世界では、温かな関係が築かれていて、すんなり受け入れられるんですよね〜。

「べにばらホテル」・・・頭の中でイメージしながら、私も楽しく読みました。
Posted by cottontail at 2005年08月23日 11:01
「べにばらホテル」は初めて読んだのですが、物語の中の物語と融合している様がとても好きです。人間の恋愛ではなく、異種との恋愛というモチーフは安房さんならではの素敵なお話に仕上がっていると思います。出てくるお菓子もおいしそうでした♪
cottontailさん、コメントありがとうございました!
Posted by kmy at 2005年08月25日 10:01
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック