2007年08月09日

『時の門』

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415010624X時の門
ロバート・A・ハインライン 福島 正実
早川書房 1985-08

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 苦労して買ったのがこれ、ハインラインの『時の門』(ハインライン傑作集4)。パラドックスで有名な小説。自分が自分に会い、さらにまた一人の自分が登場し、だからこそ成り立つ現在と未来という世界を描いています。この場合、「こうなった」という過去を知った上で今の時点で自分に自由意志はあるか、改変は可能かと思いつつも、ラストで自分による自分の閉じた歴史が収束するという作品。『輪廻の蛇』にも通じますね。

 この他に収録されている作品は以下の通り。

「大当たりの年」
「コロンブスは馬鹿だ」
「地球の脅威」
「血清空輸大作戦」
「金魚鉢」
「夢魔計画」
 
 「血清空輸大作戦」と「金魚鉢」の結末は凄い! やるせなさを感じる作品。たまらない無力感。人間の限界のようなものを感じるのです。こういう状況に陥ったら……いつまでもその状況や物語その後の展開に想いを抱かせる雰囲気があります。
 「血清」の方は英雄成功物語として纏め上げることもできる内容ですが、そうならないところが逆に考えさせられるものとなっています。皆のために誰かがやらねば、ということ。実際休暇をとるはず、とりたいと思っている青年が任務につくのです。過酷な任務、その後どうなったんだろう、それが自分なら、家族なら。いろいろ想いに駆られます。
「金魚鉢」は普段からふと思っているようなことがこうして作品になっていた、という印象です。人間は地球に住んで地球をむさぼり謳歌していると「自分自身」で思っているだけなのかも、と。

 「地球の脅威」は月に住む少女が主人公。ここで登場する「フライ」というスポーツ(?)に惹かれます。クレーターになり損ねた自然の大空洞の空気貯蔵タンクの中でウイングと呼ばれるものを身につけ、空へ滑空するもの。地球の水泳と比較されて「フライのほうが、よっぽどいい」と言われています。やってみたいなあ、水泳ではなく、空中を泳ぐこと。これが物語に深くかかわるちょっと甘いストーリーです。

 「地球の脅威」で清涼感を感じるものの、どっしり重く後味に苦味が残る作品集、お勧めです。

 
posted by kmy at 17:28| Comment(2) | TrackBack(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はは〜、ハインラインでしたか〜。
最近夫に言われて気がついたのですが、いまのファンタジーブームは物理的には破綻していて納得できない。その点SFはきちんと説明してあって、整合性がある。ほんとうに実現しそうな事柄がたくさん書いてある、と。
あぁ、そうかも知れない。
最近ファンタジーが読めないんです。
多分、そういうところなのかなと思っています。
特に動物ものがダメ。受けつけません。動物を擬人化して物語を進めることに、違和感があります。

わたしもkmyさんと同じで、ご紹介の本を読みたいとは思うものの、メモするに留まっています。溜まって行くばかりです(笑)。
一生のうちに出会える本は限られているし、そのうち読める本はもっと限られているので、できるだけ面白いものを読みたいと思いますね♪
Posted by ヤヤー at 2007年08月10日 22:26
古典SFというのかな、20世紀半ばくらいの作品群が好きで読んでいます。ハインラインは短編ばかりで、長編にはほとんど手が出ていないのですけど。
SFは現在(書かれた時点ということにもなりますが)と連続して起こりうる出来事ということで書かれているので、その世界へ入っていけます。
ファンタジーについてのヤヤーさんの意見はわかります。異世界を描くというのはかなり大変だとは思いますが、たとえば単純に外国へ行っただけでも言葉が通じないのだから、「異世界」では言語はもちろん、食べるものも何もかも常識が通らないと考えていいはずなのでは、と疑問を感じる場面があると入っていけなくなったりします。

本はどんどん新しいものが出ているし、昔ダメだったものが面白かったりと、「出会う時期」が大事なのかもしれませんね。できるだけ自分に正直に楽しみたいと思うこのごろです。
Posted by kmy at 2007年08月11日 15:56
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