2007年06月29日

『ダンス・ダンス・ダンス』

ダンス・ダンス・ダンス〈上〉 (講談社文庫)
  ダンス・ダンス・ダンス〈下〉 (講談社文庫)

 本を読みながら、「こういうことが言いたいんじゃないか?」「こういう意図なのではないか?」「こういう意味を込めているのではないか?」本を読みながら解釈をする、考察する、考える。村上春樹の本は「こういう意味」かどうかはあまり関係ない気がする。吸収されてるようにも思えるし、自分から何かがにじみでていくような感じもする。考えるより感じる。『ダンス・ダンス・ダンス』は面白い。設定もいい。よくわかる。そうそう、って思う。でしんみりする。村上春樹の中で一番好きな作品。あらすじは書きません。読む人は読むだろうし、読まない人は読まないから。こういう話なのって説明すると面白くなくなる小説です。(ちなみ最初に裏表紙を見たとき、「ダンス」の話だと思いました。「ステップを踏む」とか書いてあったので。全然違いました(笑)。主人公はダンサーではありません)

 「喪失感」(下巻P318)と「僕」は言葉に出してみる。絶え間なく変化する毎日の中で、何かが蓄積されていくと思っていた。ふと気がつくと、どんどん消えていくものがある。
そして人は年をとっていく。時は取り分をとっていく。
(上巻P360)

 単に「僕」が登場人物の年齢を感じた場面での文章だけど、引き締まった一文で印象的。奇妙な人々と、都会の風景。そうした設定だからこそ描けるのかもしれない。どんどん失われていくもの。それを感じること。

 いつの間にか疎遠になった友人、もう行くことがない場所。記憶の中にだけある出来事。そういうものが大人になるにつれて増えていく。知り合った人も多いけど、もう会わない人も多い。あんなに好きだったものも今はほとんど興味がない。そうしたことを感じながら物語の方が近づいてくれる感じです。本に共感し、本が共感してくれる。それだけで十分。

 そして流れる時代「高度資本主義」。物を買うことが単純ではなくなった。本当に欲しいものは買えないが、何でも経費で落ちるということ。そして物は単純ではなくなり、ある種の幻想を与えるために存在している。そう感じる現代。時代は80年代だけど、よりいっそう幻想が増大しているのかもしれない。商品はただの商品ではなく、幻想なしには現代の商品とはなりえないのかもしれない。
どんないかがわしいものでもあるポイントを超えると単純な善悪の尺度がきかなくなってしまう。そこにそれ独自の独立した幻想が生じるからだ。そして一度幻想が生じると、それは純粋な商品として機能し始める。高度資本主義はあらゆる隙間から商品を掘り起こす。幻想、それがキイ・ワードだ。
(下巻P159)

 物欲が強いわけではないけども、現代は幻想であふれていると感じます。幻想のためにさらなる幻想が生まれているような。好むと好まざるとそういう社会に生きているのだと、ときどき思います。開高健の「巨人と玩具」を思い出します。物を買うという幻想。


 前に読んだときには気にも留めなかった「タルコフスキー」がこの小説に出ていました。気にしていることはきちんと目につく。人間は見たいものしか見ないbyカエサル、でしたっけ? でも「僕」によると「シリアスでスノッブ」だとか。

 「キキ」という女性の名前(正確には名前ではないですが)に何か意味があるのかと気にはなっていました。ジョン・コリアの短編で「マドモアゼル・キキ」というのがあるんです。調べてみたところ、外国語のスラングはこの職業に関係するみたいです(参考にしたのはこことかここ。意味付けしてた?)。なるほど、ね。


posted by kmy at 18:49| Comment(8) | TrackBack(0) | 村上春樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
村上春樹好きでオリジナルの小説は読んでいるはずなのにストーリーが思い出せないもの多し。ダンス・ダンス・ダンスもしかり。駄目ねー!!佐々木マキさんの表紙ははっきりと思い出すことができるのに。あわてて夫の本棚から文庫を探し出しました。読みなおします 楽しみだわー。夫には「君は雰囲気だけで読む癖があるからストーリー忘れちゃうのよ。」と怒られます。たしかに・・・。
そんなダメダメな読者の私が村上氏の長編作品のなかでも好きなのは(思い出せるのは、か?)「羊をめぐる冒険」と「海辺のカフカ」です。何がどう、と言われても うまく説明できませんが。
そういえば短編小説の楽しさも村上春樹訳のレイモンド・カーヴァーで知りました。村上氏の小説もカーヴァーの小説も あとからジワジワパンチがきいてくるような気がします。 
Posted by めぐりん at 2007年07月01日 21:17
めぐりんさん
村上さんの小説は筋というよりは記憶の断片のような、ふっと湧き上がってくる風景、出来事、思いのように感じられます。読むより何かを感じるという。
謎に惹かれる部分ももちろんありますが、言葉のちょっとした表現がすっと入り込んできます。
何がどうって、「カフカ」とか「世界の終り」とか説明しにくいですよね。
翻訳物の短編は読んだことがなくて、今ちょうど借りてきています。カーヴァー、これから読みますね♪ 楽しみ。
Posted by kmy at 2007年07月02日 14:50
追伸
村上氏のことで
http://papativa.jp/archives/000202.htmlこんなサイトとみつけました。なかなか面白いです。村上春樹氏の小説は好き嫌いにかかわらずその世界を分析せずにはいられないなにかがあるような気がします。

カーヴァー、楽しんでくださいね!
Posted by めぐりん at 2007年07月02日 17:19
めぐりんさん
サイトのご紹介ありがとうございます♪
なるほどぉ〜と思いながら読みました。
そういう一致があるんだ、と。あまり考えてみたことがなくて。
カーヴァーの短編集ではなくて、アンソロジーなのですが、カーヴァーが一篇入っています。
まだそこまで行っていませんが……楽しみ。
Posted by kmy at 2007年07月03日 19:48
このシリーズ大好きで何度も読み返しました。個人的に一番すきなのは「羊をめぐり冒険」かな。
読んでいて凄く気になるのはストーリーのテンポ。「風の歌を聴け」のころはなんだかどんよりしていて「風」は吹いていても「僕」は動いていなかった。ところが「ダンスダンスダンス」では「僕」が目まぐるしく動いてるじゃありませんか。時代を感じました。
60年代、70年代って未来への希望がありつつも何処かどんよりした空気があったように思います。それが80年代に入るとなんだか空気が軽くなって、やたら忙しく動き回って日本中がチャラついてました。まさにバブルですね。
私も80年代の人間だな、とふと思いました。
Posted by ぴぐもん at 2007年07月08日 00:18
ぴぐもんさん
わたしはこの本が一番好きかもしれません。
20代が過ぎて、生きていくことになれてきているけど「心の震え」を感じることが減ったという30代。ちょうど主人公と年が一緒くらいで、舞台の時期はユキと同じくらい?と思うとその二人のことがいくつか重なってきました。
めまぐるしく変わる時代を感じます。今に続く現代は80年代から始まったのだと思いました。
この本を読んでいると「失う」もの「繋ぐ」ものに想いをめぐらせます。『羊〜』も読み返してみたくなりました。
このごろ、村上さんの本が読みたくなる気分です。
Posted by kmy at 2007年07月08日 13:25
kmyさんの感想を読んで、いつか読んでみたいと思いながら、何年も経ってしまいました。
1Q84で初めて村上春樹を読みました。面白かったので、そう言えば、と思いだして次に買ったのがこの本で、ようやく昨日読み終わりました。
1Q84は読了後、「え?これで終わり?」という物足りなさと(結局続編が出ましたが)、言い知れない不安感を残したので、そういうものか、と思っていたのですが、希望を感じる終わり方で安心しました。

ところで、不思議に思ったのが、食べる描写が、シンプルなのにすごく美味しそうに感じる点です。どうなっているんでしょう(笑)
「〜を冷蔵庫から取り出しよく洗って食べた」とか「ビールを飲み、〜を食べた」とか。それだけなのに……。
Posted by 二尋 at 2010年04月16日 22:02
二尋さん
『1Q84』のBOOK3を買いましたが、もう一度1、2を読んでからと思ってまだ全然読んでいません。
村上さんの小説はだいたい1980年代半ばを舞台にしているような感じで、『ダンス〜』も『1Q84』を時代が重なりますが、印象としては『ダンス』のほうが懐かしい昔の雰囲気を感じます。
物足りなさというか、すっきり解決してこの話は終わりというのはあまりない(あったかな?)と思います。こういう感じに一連の時間が流れて、主人公が何かを思って行動して、それで話が終わっても続いていくんだろうな〜とそのことがまた気になりつつ楽しんでいます。
この物語のユキとアメはどうなったんだろうとか、そんなことも考えます。

おいしそうは本当においしそうで、簡単に主人公が作る料理もすごく惹かれます。作りたいとかではなく、描写がおいしそうっていいなあと思います。何でも具体的に書かれていて、メーカー名とかに気を遣わないのも村上さんだからかな、と思っています。

短編はシュールで面白いですよ。『カンガルー日和』が一番好きです。
Posted by kmy at 2010年04月17日 12:56
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。