2007年06月26日

『ツアー1989』

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中島 京子
集英社 2006-05

by G-Tools



 ちょうどブログを書き始めたくらいのころ、読売の書評でブログを題材にした小説ということで「テディ・リーを探して」というのが紹介されていました(本よみうり堂「舞台としてのネット社会」)。このときかなり気になって、小説「すばる」を買いに行きましたが売り切れ。いつか読めるだろうと思っていたら、思いのほか早く書籍化されていたとは知らず、出版からだいぶ経っていました。この書評を読んだときにはひとつの短編かと思っていましたが、こうして本を手にとってみたら連作短編になっていました。15年前、1989年の香港ツアーによるゆるいつながりがあり、そして現代につながっていくあやふやで失われた記憶と生まれる幻想の物語。
 エピソード1,2,3と締めくくるエピソード4で構成されており、最初に来るのは「迷子つきツアー」。1989年の香港ツアーでいつの間にかいなくなった19歳の男性。彼が書いたという手紙が届くのだが、受け取った「凪子さん」はその男性についての記憶がない。でも書かれている手紙の職場や近くの店についての記憶は確か。香港ツアーで迷子になった男性が書いたものらしい。手紙を持って現れたケースケはこの男性を突きとめようとさまようのだが、それがわからないならわからないで、わかったならわかったで、漠然とした感じにとらわれる。その迷子の意思は、意味は、特別なものなのか、ただ流されただけなのか……年月を経て変化するものについて、分断された記憶、作られる幻想、そういうものをいつまでも想う小説です。

 「迷子」として香港に残された男性とそれを追うケースケの二人が核となり、他人の記憶、自分の記憶が混ぜあわさり、過ぎた日のことがあったのか、なかったのかという感覚が生まれるのが面白い。本当はどうだったのか、ということが気になり、それを突き止めるというミステリー仕立ての部分も面白いです。終わったかもしれないけど、終わってないと感じさせる、人間が生きているということは、続くことだと思わせる、そういうラストでうれしい。
posted by kmy at 10:05| Comment(2) | TrackBack(1) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
Posted by 藍色 at 2010年11月10日 11:31
藍色さん

中島京子さん、久々に読み返したくなりました。
ブログも拝見しました。面白そうな本がいくつも紹介されていますね。わたしも読んでみようと思っています。
Posted by kmy at 2010年11月10日 16:23
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ツアー1989 中島京子
Excerpt: 注目作家の記憶をめぐる傑作小説!15年前の香港旅行。 その時迷子になった男子大学生をめぐって、女性添乗員、 ツアー参加者、彼の手紙を届けられた女性の記憶が錯綜し…。 真実は?記憶をめぐる微妙な心..
Weblog: 粋な提案
Tracked: 2010-11-10 11:23