2007年06月07日

「完全映画(トータルスコープ)」

 安部公房の短編集『カーブの向こう・ユープケッチャ』(新潮文庫)に入っている作品。トータルスコープ計画、略してトタスコと呼ばれるこの映画は、スクリーンに映し出すのではなく、直接人間の脳細胞や神経を刺激して、そっくりそのまま「体験する」という新しい映画。神経生理学と電子工学をあわせたのこトタスコ映画は東洋映画の出資により進められてきたというものです。シナリオ委員会は観客が物語の主人公になりきって参加するということで、3つのタイプに方向を決めました。それがイ)あこがれの実現、ロ)空間的以上体験、ハ)時間的異常体験です。イ)とロ)を集約し、ハ)を別個で製作することに決めたのです。
4101121206カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)
安部 公房
新潮社 1988-12

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 こういうのが大好きです。映画といえばスクリーン、実際に座って観ているというのがなかなかできないのだけど、このトータルスコープは座って観るのではなく、体験するというのです。どことなく「マトリックス」の世界観を連想させます(「マトリックス」のアクションはともかく、ああした、脳にイメージを埋め込み、それを現実と認識している世界というのには惹きつけられます)。
 しかし、この小説はこれで終わらず、ぐっと現実に引き戻されるので、そこはそこで面白いのです。最初に空想科学小説と推理小説の両方の愛読者を満足させる言っているのですが、なるほどなるほど、という終わり方をします。完全映画というアイディア、好きだなあ。実現云々ではなくて、こうして文章に書いてあるのを読むのが面白いです。
posted by kmy at 15:33| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
このような作品が、安部公房にあったとは知りませんでした!
というか、この原理、私の考えるペンシーブと似ているようなので、驚いています。
マトリックスは見ていないのですが、やはり脳を刺激するないようなのでしょうか。
(ペンシーブについては、http://legilimens.blog68.fc2.com/blog-entry-100.htmlに想像を書いたことがあります)

脳に直接働きかける、という発想、安部公房の時代からあったことに驚きました。
Posted by 二尋 at 2007年06月07日 22:08
二尋さん
この物語は二部立てのようになっているので、そのあたりでぐっと現実に引き戻されるのですが、トタスコ計画の部分はありそうで面白いです。
あまり映画を観ないのですが、「マトリックス」の世界だけは好きで、実際に体験しているかどうかは別として、脳に刺激を与えていわば幻想を見させることで、人間はそれが本物だと信じている、というようなことを描いています。(2,3はアクション、ロマンス色が強くてあまり好きではないです)
二尋さんのペンシーブの記事も再読しました。このペンシーブの原理って曲者ですよね。
客観的に見えている自分がいる、というが不思議でした。答案の回答とか、文字とか、そういうものが実際スネイプ先生は“L.E”の落書きなんてみてないでしょうけど、ペンシーブだと見れるんですよね〜。ペンシーブの原理についてはかなり悩みますが、わたし自身、この道具が大好きでもあります。
Posted by kmy at 2007年06月08日 13:35
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