2014年05月20日

『ポースケ』

ポースケ
津村 記久子
中央公論新社 ( 2013-12-09 )
ISBN: 9784120045752


『ポトスライムの舟』続編。ヨシカのカフェに集う人物たちの日常、悩み、想いが連作短編として綴られている。タイトルの「ポースケ」ってどういう意味?と惹かれるものがあり、この「ポースケ」がラストに繋がって行く様子もいい。

『ポトスライムの舟』ではナガセに焦点が当てられていたが、こちらはナガセについてはあまり語られない。同級生として出てきたヨシカの「カフェ」が中心になっている。同一地点を巡る人物たちのそれぞれと触れ合い、すれ違いという書き方は津村さんの小説には多くて、この書き方は好き。今回、舞台は奈良だけど、途中の難波の描写は懐かしくもあつつ、距離、雰囲気、ともにわかる感じが個人的に気に入った。久々にヒロタのシュークリーム、思い出したよ。




一番よかったのは竹井佳枝(かえ)さんの話。竹井さんは歩いて2分のヨシカの店でパートをしている30手前の女性。朝は3時に起き、世界のニュースを見る。それしかやってないのだ。4時過ぎに語学の学習をして、7時から2時まで働く。そんな生活をしているのは、前の会社で人格を否定されるような扱いを受けて、当たり前にやっていたことができなくなり、2時になると眠気が襲ってきて寝てしまう。自己診断では睡眠相全身症候群ではと思っている。津村さんの作品は度々、過度なパワハラにより、何もできなくなってしまった人物が描かれている。ご自身の体験が反映されていると、ネットのインタビューで読んだ。そんな心身が壊れた人物が退社後に生きていく様は、決して順調ではなく、全てが否定的に感じられ、自信をなくして、フラッシュバックに悩まされる。言葉の暴力は精神を蝕む。佳枝さんはそんな自分を認識し、なんとかヨシカの店で働いている。このパワハラの描写や、自己認識と、ちょっとした事件というかきっかけで、一歩先に進んでいく様子が愛おしい。

どの短編も、人物は問題を抱えている。安易に簡単に、幸せとか成功とかが華々しく訪れることはないけど、それぞれの人物が一歩先に踏み出す様子が描かれいて、そのことがすっと胸に落ちていく感じ。
posted by kmy at 20:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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