2007年04月14日

『イワン・イリイチの死/クロイチェル・ソナタ』

4334751091イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)
望月 哲男
光文社 2006-10-12

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 今年はロシアのものを読もう!と思っているのです。というわけで、トルストイ。

「イワン・イリイチの死」
 イワン・イリイチという人物は地位、収入にも恵まれ、自分では満足だと思う結婚をし、子どもも授かり、世間的には申し分ない生活をしています。しかし、自分とはまったく無関係だと思われている「死」に直面して、これまでの表層的な生活が本当に「喜び」であったのかを疑問に思うのです。
 ここで語られているイワン・イリイチの生活は時代状況から言えばとても恵まれたものです。とはいえ、「上品・快適・気楽さ」という三拍子揃ったものを求め、それを日々実現することこそよき生活だとすることは、現代の生活と合い通じるものがあります。快適さを求めた生活をしていたとしても、死は避けられないものであり、死に向かう人間にとってはこの生活はもはや意味を成さないもの。そうなったときにこそ感じる本当のものとは何か、考えさせられるものです。
 葬儀の場面を読んでいると、結局他人の死というのは次にその地位につくのだ誰だとか、年金をより多くもらいたいとか、現実的な利益・損得について考える周囲の人々が描かれています。この場面では読者にとっても「他人の死」です。その後に語られるイワン・イリイチの生涯を読んでいくに連れ、快適な生活の楽しみは単なる表面的なものでしかなく、自分とて例外なく死ぬべき存在であり、死にいく自分を感じて生きていくときに、どんなことを思うか――読みながら自分が一度死んでいくような気持ちになります。

「クロイチェル・ソナタ」
 こちらのテーマは「愛」。結婚制度や結婚後のその後というもの、そして肉体的な愛というものについて。結婚というのは昔話のように「めでたし、めでたし」で終わるわけではなく、その後が続いていくわけです。そのことについて、結婚している人にとってはいろいろ思うことがあるのでは、と思いました。わたしもしかり、です。
当時自分では気がつきませんでしたが、憎しみがわく時期というのがあって、それを完全に規則正しくきちんきちんと巡ってくる、しかもその時期は私たちが愛と呼んでいた感情のわく時期と呼応していたのです。(中略)この愛というものと憎しみというのも、単に同じ一つの動物的な感情を別々の面から見たものに過ぎなかったのですね。
P241

 愛、憎悪、これが同じ一つの感情というのが印象的です。身近なだけに愛を感じ、憎悪を感じるものなのでしょう。結婚、夫婦、子どもについて、語るポズヌィシェフの心情に共感するところあり、発見させられることありです。

 この中篇を読んだあとにトルストイの年譜があってとても興味深いものです。結婚制度、結婚生活、子どもなどについていろいろ語られる内容を思い起こしてしまいます。死別した子どもが幾人かいますが、九男四女もいたというのに少し驚き。そのあたりは時代が違うんだな、と内容とは無関係に感心しました。
 

 ロシアについてあまり知らないので、調べながら読むと、なかなか新規に知ることがたくさん出てきて、そういうことも楽しいものです。ロシアの名前がみんな似たような名前なのは何で?と思っていましたが、伝統的な名前をつける習慣があるからで、名前を創作しないから名前は限られているというのも面白いと思います。


posted by kmy at 15:28| Comment(2) | TrackBack(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
昔よく聴いた「さだまさし」の歌に「クロイツェルソナタ」というのが出てきて、その響きがとても印象に残っていましたが、そういう題名の本がトルストイの作品にあったなんて。
是非読まなくちゃ!
Posted by noel at 2007年04月17日 23:47
noelさん
「クロイチェル・ソナタ」という響き、なんとなく素敵ですよね。ベートーベンの曲だそうで、ピアノとバイオリンの奏でる曲が物語の中心で曲とともに盛り上がりを見せる…のですが、曲のほうはどんなのか実は知りません(汗)
今度レンタルでもしてこよう、と思っているのですが、あるのかなあ、と。曲を聴きながら本を読むとまた雰囲気がいいのではないかと思っています。
さだまさしさんの曲にも出てくるのですね。知りませんでした。どんな曲なのでしょう? 気になります〜。
Posted by kmy at 2007年04月18日 10:51
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