2007年03月28日

再会(『眠れ』)

 もうすっかり記憶の底に沈んでおりました。こんなところで会うとは思っていませんでした。プリンスと再会したのです!

 少し前です。Amazonの本をふらふら眺めていました。大きな書店が近くにないので、最近はネットで眺めているほうが今まで知らなかった本に出会うことができます。そうは言ってもめくって文章を少し読んでみないと実際のところは趣味に合うかどうかわかりませんので、買うのにはためらうのですけども。
 いいな、と思ったら図書館にあるかもしれないし、広域で貸し出してくれるのでたいていの本はたぶん借りれるはず。いきなりは買わないほうです。それなのに、まったく初めての作家で、内容紹介を見ただけで買いたくなってしまいました。それがこの本。

490582141X眠れ―作品集「青い火影」〈1〉 (群像社ライブラリー)
三浦 清美
群像社 1996-03

by G-Tools


 ロシアのSF(正確に言うと旧ソビエト時代の作品)らしいとのことで、内容紹介に「コンピューターゲームと一体化した中央官庁に働く職員」とか「夢の中で生活する学生」というのに惹かれて買ってしまいました。
 短編集ということで、10篇の物語が入っています。その中であっ!と思った作品がこれ。

『ゴスプランの王子さま □B>MS DOS』

 内容紹介にあった「コンピューターゲームと一体化した中央官庁に働く職員」の話です。これ、なんです! MS−DOSの文字があるように、タイトルはDOS時代のパソコンの立ち上げ風。この物語の章立ては、まず「ローディング」そして「レベル1」「レベル2」途中「Autoexec.bat―レベル4」などとなっていて、パソコンゲームの立ち上がりと現実世界が融和して話が進むのです。2ページ目の「ローディング」の章が終わると、奥付を確認しました。日本での出版は96年ですが、原書は91年。時期も合う。MS−DOSだし、キーの操作も一緒。東洋風の装飾、石造りの坑道、懸垂、王子さま(プリンス)。これらのキーワードが当てはまるゲームをやったことがある! 「プリンスオブペルシャ(リンク先はフラッシュゲーム。一面のみのお試しです)」でしょう!
 この「プリンスオブペルシャ」というゲームは現在も3Dとなってなめらかな映像とともにプレイできるようですが、この本に描かれているのはMS−DOS時代のPCゲーム、「プリンスオブペルシャ」であり、わたしが大学の研究室で夢中で楽しんだゲームそのものでした。思わず検索してしまいました。まだ情報があるのね。懐かしい〜。
 途中で針のようなものがじゃきっと出てきて串刺しになったり、物語でも登場する「鋼鉄のぎざぎざの鋏」にはさまれるとざくっと音がして胴が切れ、血を流して死んでしまいます。これがなかなかリアルで、ゲームオーバー後にも死体が残り、鋏のしゃきしゃきいう不気味な音が鳴り響くゲームです。当時はマウスがなかったので、いくつかのキーを使ってプレイしました。
 これを意識したから「ゴスプランの王子さま(プリンス)」というタイトルなのでしょう。プレイしている主人公=プリンスということになりますが、ゲームをプレイしてレベルを上げてたどり着く先に見えるものとゴスプラン(旧ソ連の国家計画委員会)での停滞した活動が重なりが面白い。
「(略)人は途中これほどの時間と労力を使ってたどりついた以上、実際すべてをありのままの姿で見ることはできなくなると思うんだ……。まあ、こういう言い方も必ずしもぴったりではないけれどね。『本当のこと』なんて本当にはないんだよ。まあ、見ることができなくなってしまうんだ」
(本文P199)

 過程があるから、実際以上に見えるもの。しかし、本当の姿を直視できないくらいそこに注ぎ込んでしまったもの。ゲームという世界は、やっている間が全てで、エンディングはたいしたことはないものです。そのあたりが旧ソビエトの官僚社会の様子とミックスされていて、終焉間近の社会主義体制についてもう少し明るければより楽しめるのではないかと思います。それにしても、10年以上ぶりに偶然買った本でなつかしい気分になりました。とは言うものの、わたし自身はかなり反射神経が鈍いので、カナダ人の留学生にかなりゲームを進めてもらい、教わりました。英語も教わりました。"Get out of here!" ゲーム中に邪魔するなよっ!と何度も言われて覚えました(笑) その留学生は剣道をやっていたので、作中に登場する上司がサムライの刀で「燕返し」をしているという場面もどことなく重なる気もして、さらに懐かしい気分になりました。

 ほかの作品も旧ソ連の状況を踏まえた雰囲気を感じる作品がいくつもありますし、世の中の見方を変えてみると?というものもあります。

『世捨て男と六本指』
読みはじめはどういうことなのかまったくよくわからない。異世界? SF? 最後までいって納得ということで、比較的分かりやすい話でした。
 単純に筋が面白いというよりは、結構考えてみる、立ち止まるようなお話が多くて、ものの見方を変えてみるとどうなる?と問いをもらっているような印象です。

『眠れ』
 学生ニキータはどうしても講義の最中に眠くなってしまう。ある日、眠りながら授業を受けることができるということに気がついた。周りを見ると、実はみんな眠りながら生活していた。この物語、気に入っています。

 どれも何度か読み直してみて、少しずつ消化しています。

参考:
北大スラブ研究センター 現代ロシア文学

すばる文学カフェ 2006年10月号 ひと 
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