2007年03月04日

『だけどぼくは海を見た』

創作子どもSF全集 全20巻


『だけどぼくは海を見た』
佐野美津男作 中村宏絵 創作子どもSF全集より 国土社

 『犬の学校』に続き、期待を裏切らない作品でした。ある日突然日常が非日常に変わってしまったとき、そのとき、家族はどうするか考えています。設定も違和感なく感じました。
 ある朝目を覚まして見ると、宏幸の家の周りは海になっていた。隣の家も見えない、一面の海。驚き妹の昌代を呼んでくると、昌代は海に飛び込んで楽しそうにイルカと遊びだす。お母さんは買い物に行かれないと嘆くが、それどころじゃない。仕方がないので宏幸とお父さんも海へ出て行き、手がかりを探そうとします。


 この物語は残酷かもしれません。近所の人はいったいどこへ行ってしまったのか、この先どうなるのか全然わからないのです。こんな驚くような光景になってしまったにもかかわらず、悲観的にならずに宏幸たちはこの珍現象を考え、そして行動します。
 生きていくことって大変かもしれない。毎日平凡にすごしてつまらないと思うかもしれない。しかし、当たり前の毎日はある日突然崩れるかもしれない。そこで見せる家族のあり方や宏幸の前向きな態度に心打たれます。

 いろいろな部分が未解決で終わりますが、きっと未来はあるはずと思えます。突然周りが海になってしまったのに、なぜ水道が出てガスが使えるかについてはきちんと説明してあるのが論理的で気に入っています。

 あとがきで書かれていることもとても心に残ります。
もしも突然、わたしたちをとりまく自然がかわってしまったらどうなるのか、と想像してみました。それでもなお、日常生活はつづけられるのだろうか、とうたがってみました。
(中略)
「あなたならどうする」というのは流行歌のもんくですが、この作品もあなたにむかってあなたならどうするか、と問いかけたようなものです。
 あしたの朝、窓をあけるときには、いつものようにではなく、やってみる気にはなりませんか?
(本文 あとがきP108〜109)

 あなたならどうする、という状況を描きながら、絶望したりせずに考えて行動する家族が描かれています。状況がよくなるかどうかはわからないけども、当たり前と思っていたことが当たり前でなくなったときに、わたしたちはどのように対応していけるのでしょうか? それを問われている作品です。自分だったらこんな風にできないな、とあきらめる前にまずはやってみる、やってみなくてははじまらない、という気持ちになります。

 挿絵の中村宏氏の絵もこうした超現実的な物語ととてもマッチしています。見ていて飽きない絵です。表紙の海の絵、素敵です。

参考サイト
中村宏―図画事件
東京都現代美術館 企画展示室 1F+B2Fにて
2007年1月20日(土)→4月1日(日)まで開催

posted by kmy at 20:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐野美津男 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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