2007年02月18日

『さよなら地底人』

4577031442さよなら地底人
高科 正信
フレーベル館 2005-10

by G-Tools



 友だちの陽子ちゃんは妖精を見たといい、お兄ちゃんは地底人に会ったというのです。万寿(まんじゅ)はどちらも見たことがないけども、砂の中にいる妖精はお団子を食べて口の中がじゃりじゃりしないかな、とか、地底人はなんでわざわざ人間の中で暮らすんだろうと想像をめぐらします。神戸に住む万寿と千福(せんぷく)兄妹の会話が中心のお話。阪神大震災でおばあちゃんをなくして、「だれのこともようわからんようになった」おじいちゃんの切ない物語が絡まって進行していきます。

 妖精とか地底人とか、子どものころにはきっといるだろうと信じていた時期があったと思います。わたしも地底人はともかく、妖精はいると思ったものです。しかし、大人になるにつれ、妖精の実在を語ることはなくなるでしょう。物語として、イメージとしては存在させることはできませすが、地面を掘れば地底人に会えるとは考えません。まだ妖精がいるのではないかと思っている万寿も、結局妖精を見たことはありませんし、地底人にあったことはありません。あったことはなくとも、、見たこともなくても、そのお話だけでイメージが膨らみ、本物と変わりない存在として信じることができるのが子ども時代なのだという思いを感じます。(ラストネタばれ:反転してください)そしてそういう存在といつかさよならするときがくる、それが「さよなら地底人」だとお兄ちゃんは言うのですが……。

 この物語はファンタジーではないので、結局地底人や妖精は出てきません。ただ、子どもたちの中にあるイメージなのです。それとの付き合い方が描かれていると言っていいのかな、大人になると想像のものと現実のものにはっきりとした区別を引く時期が来る、現実に地底人と会う約束をしたり、妖精とお団子を食べることはできない、写真を撮ったり話たりということもできない。そういうものなのだという折り合いをつける時期が来るはずだ、と。とはいえ、この物語では「地底人はうそだ」とはっきりさせるのが目的ではありません。会いたいと思えば会える日が来るとお兄ちゃんはいいます。目に見えないものは全て「うそだ」というのではなく、それは自分の中にしまっておく時期が来ると語りかけているような気もします。
 こうしたことが象徴的に語られるのが天国についての会話。亡くなったおばあちゃんとの関係で、お兄ちゃんは天国についてこんなことを語ります。
「天国というところはな、あしたみたいなもんなんや」
「あした?」
(中略)
「(略)あしたはいつまでもあした、天国はいけそうでいかれへん」
(P33〜34)

 大人になっても妖精を見れるという言い方もできるかもしれませんが、あえて作者はそういう風に書かなかったのだと思いますし、万寿が地底人と会えたりという展開にもしなかったのだと思います。子どものころに楽しく想像していた世界というのは確かにあり、信じていた時期があること、そしてそういうことを全て切り捨ててしまうのではなく、こういう時期にしかできないことを大事にして見えるものを見て欲しい、感じるものを感じて欲しいということを伝えたいのではないかな、と思いました。

 現実と想像の区別をつけるのが大人、と言えるのかもしれませんが、想像を「うそ」だと片付けるのではなく、想像は想像の世界として大切にしていくことで自分の世界は広がるということ感じます。何もかもが「いる」「いない」の二分化ではなく、「いると思えば会えるときがくる」ような気がします。
posted by kmy at 14:14| Comment(2) | TrackBack(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いいお話ですね。

天国はあしたみたいなもの
あしたはいつまでたってもあした
会いたいと思えばいつでも会える

みんな含蓄があっていいことばだと思いました。

特に「あしたはいつまでたってもあした」

ということばは思わず深呼吸してしまいざす。
天国も妖精も夢も希望も明日も
手にすることは出来ない。でも意識することはいつでも出来る。
Posted by ぴぐもん at 2007年02月23日 19:07
ぴぐもんさん
最初、書評を見たときに、地底人に会う話なのかな?と少し思ったのですが、この話は地底人に会わないことでいい物語になっていると思います。
引用させていただいた文章、とてもいいなあ、とわたしも思いました。
あしたについて語るお兄ちゃんはなかなか素敵です。
このお話を読んでいて、サンタクロースについて、通じるところがあるように感じました。
見えないかもしれないけど、これも「あした」みたいなものかもしれません。

Posted by kmy at 2007年02月23日 20:08
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