2007年01月27日

『オオカミのゆめ ぼくのゆめ』

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三田村 信行, 佐々木 マキ / ほるぷ出版
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Amazonおすすめ度:


 これ、どれもヘンな話と言っていいかもしれません。読み終わったあと、かなりもやっとした気分が残って離れません。で、その後どうなる?で終わってしまうような感じのものと、結局その出来事は何だったの?と自分で考えなくてはいけないこと請け合いです。
 このわけわからない感じというか、いろいろな解釈ができるというか、それが持ち味なのだと感じますし、わたし自身、こうした傾向のある三田村信行の短編集が気に入っています。これらの作品はどれも物語の筋ではファンタジックな味を出していて、ああ、これでうまくいきそうというほっとしたような気持ちを持ち、そしてそのまま結末に向かうかと思いたいところなのですが、思っている通りにはなりません。描かれているのは幸せなひとときと、それが裏切られたときの落差。読み終えるとうまくいかない現実に愕然とするかもしれません。不安、期待、そして結末。よく物語で「こんなにうまくいきっこない」と思うお話がありますが、この短編集は逆です。
 特に「生きる時間」は印象に残ります。

(この後、あらすじとネタばれ感想があります)

 こちらの収められている短編は次の通り。

『おばさんの庭』
 保険の外交員のおばさんは「幻想樹木研究所」のセールスマンから「ねこの木(学名:デウス・エクス・ネコノス)を買い、育てはじめる。時々送られてくるかつお節の匂いのする肥料を決まった時間に何度も与えるという大変な木だった。やがて実がなり……。

『砂の少女』
足の速いサチコは傷跡に砂がついているのを見つけます。それは自分の体からでているようでした。時折赤い砂漠を裸で歩くゆめを見ます。気になったサチコはだんだんと無口になり、友だちとも遊ばなくなります。中学生になったある日、「日本奇病研究所」の広告を見つけ、尋ねることにします。しかし……。

『ゆめの村へ』
旅の六部が一夜の宿を求めたのは人里はなれた場所に住む猟師の小屋。なぜこのような旅を続けているかという話を聞かせます。聞くと、旅先で知り合った薬売りから仙薬を飲んで不死になり、村人たちが何不自由なく暮らしている隠れ里に出会ったと聞き、自分もその村を探している途中だというのです。猟師は話を聞きながら、なにやら思うことがあるようなのですが……。

『生きる時間』
お父さんの経営する会社が倒産し、借金を抱えた家族は心中しようと睡眠薬を飲むのですが、あの世の手前まで行って戻ってきます。生き返った家族には不思議な「霊力」が備わっていました。これなら借金を返せるかもしれない、生きる希望が生まれ、しばらくはうまくいくのですが、やがて不気味な目が家族を見つめ、そして――。

『オオカミのゆめ ぼくのゆめ』
山に住むオオカミは「ぼく」になっていた。人間になったオオカミはプールに行き、だいこんをもらってくるようにお母さんに頼まれる。だいこんって何だ?と思うオオカミ。一方ぼくはゆめの中でオオカミになっていた。オオカミなんだ、怖いものなんかないと思い山をさまようも、仲間は見つからず、そして人間の住む町へ。そこには「ぼく」がいた……。

 「生きる時間」が終わってしまった、という結末。読んでいる途中、赤ん坊の妹あゆみがこういう生活をして、そして将来結婚したらどうなるのだろう?などと考えていました。そういう時間は来ないという結末のようで、どーんと落とされた気がしました。魔法的に解決できれば、誰もが願うことかもしれません。あっと驚く状況の変化で、悩んでいたことが解決できたら、そんな期待を抱くことはきっとあると思います。しかし、これらの短編集はでは期待はことごとく裏切られます。ネコの木は枯れ、庭は何もなくなる。六部は隠れ里へは行くことなく終わる。サチコの病は治らない。甘いゆめはゆめでしかなかった、ということが突きつけられます。
 暗い結末なのですが、それだからこそ印象に残ります。一瞬のゆめを与えられ、ふと現実に戻るとき、これらの物語をある種のゆめとして受け取るのですが、ゆめのままの安直に解決しなくてよかった、と妙な感想を持ったりします。「解決しないことがある」これがこの短編集のキーワードなのかも、と思います。物語の中くらい楽しみたいという気持ちはもちろんあると思いますが、これは楽しむ物語ではないけれども、読み終わった後に「結局話しだからどうとでもなる」とは言わせない凄みがあります。何でも決着がつく、奇跡が起こって幸せになることが現実では少ないだけに、なぜかそうなんだ、と納得するようなお話です。うまく言い表せないですが、単なる夢物語だから、と読み捨てできないものがあります。
posted by kmy at 17:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 三田村信行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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