2013年01月20日

『ポトスライムの舟』

ポトスライムの舟
津村 記久子
講談社 ( 2009-02-05 )
ISBN: 9784062152877



 第140回芥川賞受賞作だと、図書館の方が見開きに貼ってくれていた帯の切り抜きで知りました。表紙とタイトルとに惹かれて読み始めたところ、期待を裏切らない素敵な作品。


 主人公は普段工場に勤務し、パソコン講師と友人のカフェを手伝い生計を立てている。古い奈良の家に母親と住み、約しく暮らしている。以前、上司からモラハラを受けて会社を辞めた後、働くことに恐怖を感じて過ごしたという。そんなナガセが工場で目にしたポスターが、世界一周旅行の案内。料金はナガセの工場勤務の一年分とほぼ等しい。この旅行を目標にと、自分自身を奮い立たせつつ、仕事をするナガセのもとに、学生時代の友人親子が夫婦の不仲を理由に身を寄せ……。


 この小説は、逆境からの逆転でもなく、世界一周旅行へ旅立つわけでもなく、静かに生きている人々を描いている。その、日常に共感し、なんとか毎日生きてるな、わたしも生きてるな、って想う小説です。楽しくなるとか、ハラハラドキドキの展開ではなく、ただほっとする。そうだよね、って思う、その心の昇華が得られる感じ。

(略)生きていること自体に吐き気がしてくる。時間を売って得た金で、食べ物や電気やガスなどのエネルギーを細々と買い、なんとか生き長らえているという自分の生の頼りなさに。それを続けなければいけないということに。P12

 
 毎日、面白おかしく生きてるわけじゃなくて、なんとか生きてるという、その「生き方」に共感しつつ、日々の出費を気にしつつ、毎日を生きてるその描写に惹かれました。


 表題作のほか、「十二月の窓辺」を収録。モラハラを上司から受ける女性の描写が痛々しく感じられる。些細なことを咎められ、あげつらわれ、挙げ句の果て、辞めても無駄だ、どの会社も受け入れる筈はないといても辞めても自分はだめなのかと、自身を全否定される。ラストでこの人格否定から逃れることができるのだが、その場面に共感するというか、自分はだめな人間ではない、と気づける気がする。周りを変えることはできなくても、自分が動いて変わることができる、と思うのでした。


posted by kmy at 21:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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