2006年12月30日

『神様ゲーム』(講談社ミステリーランド)

4062705761神様ゲーム (ミステリーランド)
麻耶 雄嵩
講談社 2005-07-07

by G-Tools


 昨晩、読み終えたら寝ようと思ったのです。読み終えたら逆に眠れなくなりました。ミステリーランドシリーズの中では「子どもに読ませたくない」けど「面白い」と評判の本のようです。

 主人公芳雄は小学4年生。同じ町内の子どもたち5人で探偵団を結成し、空き家になった廃屋、通称「鬼婆屋敷」を本部にしている。最近起こっている猫殺しの犯人を突き止めようと、推理を巡らせていた。同じ週のある日、芳雄は転校生鈴木君とトイレ掃除が一緒になり、話しかけてみた。すると、鈴木君は自分が「神様」だと言う。そして淡々とした調子で宇宙の知的生物を作った話や人間が持っている性質は自分が作ったと言う。芳雄はこれは鈴木君の神様ごっこのゲームなんだと思いつつも、翌日掃除当番のときに猫殺しの犯人について聞くとあっさりと答えてくれた。大好きなミチルちゃんがかわいがっていた野良猫のハイジを殺した犯人に「神様」は天誅を下してくれるという。しかしその後、予想もしなかった事件に発展していく。神様の言うことは絶対なのか――そして結末の意味は?

(この先ネタばれにならないようにはしています)

 子どもに読ませたくないというのは、事件の残忍な描写、そして事件の動機が子ども向けではないということが挙げられるのかもしれません。しかし、その部分よりもインパクトがあるのはやはり「神様」の存在ではないか、と思います。転校生鈴木君は自分のことを「神様」だと言い、芳雄が知らなかったことを次々と教えてくれます。それは芳雄にかかわる秘密でもあります。芳雄が「神様」から聞いたことはどれをとっても楽しいものではありませんでした。芳雄自身は鈴木君を神様だと確信していますが、それを誰かに話したり信じてもらおうとはしません。誰もそんなことを言ったって信じてもらえない、と芳雄自身がわかっているのです。猫殺しの犯人を推理しているときには知りたくてたまらなかった「真実」が次の事件をきっかけに変化していきます。

 真実を受け入れるというのは、主人公にとって辛く耐え難いものであったに違いません。
涙がひと筋伝ったかと思うと、とまらなくなった。
神様と別れることがじゃない。神様と出逢ってしまったことがだ。
ぼくもすべてを忘れたかった。
(P264)

 神様に事件の真相を教えてもらうなんて、現実的ではないかもしれません。しかし、背景となっている子どもの生活の様子、事件、そして何より主人公の気持ちの揺れが現実味を帯びて迫ってきます。
 いつまでものどかな「探偵団ごっこ」を楽しめるわけではない。楽しいときばかりじゃない。世の中には面白いことだけで溢れているわけではなく、辛い現実があり、悲しみがあり、知りたくなかった真実を向き合わなければいけない時期が来る。そういう経験を通じて、より深くものを感じ生きていける。そういうことをこの物語を読むことで経験するというか、感じるというか、そう思うのです。目先の楽しさ、面白さだけではなく、奥にある真実を見てしまったとき、それでも生きていかなければいけない運命を持っている主人公、そういうものがぐぐっと心に刺さるような感じです。

 「子どもに読ませたくない」という視点で感想が語られていることも多いのですが、概して大人が勧めるいい話ってわたし自身も好きではありませんでした。こういう話ってたぶん、たぶんだけどね、子どもが勧められて読むのではなく、知らないところで読んでいるような、こっそり読んで「うわっ」って思っているような、そういう感じがします。大人の世界を垣間見るような世界。子ども時代も終わりが来るという予感と真実を知ってしまったときのある種の後ろめたさ……そういうものがあるのかも、と思いました。

 結末で謎を残して終わるのですが、これについてずーっと考えてしまいます。わたしとしては常識で考えるとえっ?と思うことでも、それが真実ということがあるという結末なのかな、と思います。ただし、トリックのつじつまをどう合わせられるのかはまだよくわかりません。主人公の好きな戦隊「ラビレンジャー」といい、こちらの合体ロボ「「ジェノサイド」「ネクロフィリア」などの意味を調べてみると、異常な感覚ということも伺えるのではないかと思います(芳雄の推理した犯人もある種の異常さはありますが、より不可解なものとして考えています)。「神様」の下す判断は絶対に正しいというものであり、天誅はすなわち暗殺であると思うのです。
 そうそう、この後味悪い読後感をさらに高めているのは「あとがきがないこと」です。他の作品、すべて読んだわけではないですが、作者によるあとがきがあって、書いたときの想いなどが伺われましたが、この作品に関しては「本書がどのようによまれるか読者はがきを楽しみにしております」と作者の略歴に載っているだけなのです。あとがきをつけなかったのも意味がありますね。突き放して終わり、という感じがたまらなく面白いです。あとは読者に、という感じがします。
 
 神様が教えてくれるという設定なのに、なんだか妙に現実っぽくて印象に残る物語でした。ちなみに、わたしが借りてくる図書館ではこのシリーズはY.Aに『くらのかみ』がおいてあるくらいで、あとは著者別大人のコーナーにあいります。シリーズだからY.Aコーナーにおいて欲しいと以前リクエストしましたが、実現されません〜。

 ちなみにこのミステリーランドのシリーズはどれも装丁が素敵です。角をとって丸みを帯びたページや、クロス地に箔押しの文字。だからか、値段は少々高めなのかもしれません。
posted by kmy at 21:28| Comment(6) | TrackBack(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
kmyさん、明けましておめでとうございます。

この本もとても興味をそそられました。
すぐに本屋に飛んでいって手に入れるとか、インターネットで注文するとかできないのが残念です。でも、わたしの「読みたい本リスト」に加えておいて、いつかきっと読んでみたいと思っています。

今年もおもしろそうな本をたくさん紹介してくださいね。
また、kmyさんの日常生活のお話も楽しみにしています。オチの効いたショートショートを読んでいるような気分で、いつも楽しく拝見させていただいています(ご本人にとっては笑いごとではないことが多いのでしょうが)。
Posted by みちえ at 2007年01月03日 02:23
みちえさん、あけましておめでとうございます!
こちらはミステリーということでみちえさんの好みかもしれませんが、主人公が小学生ですが、結構ひどい事件が起こります。ミステリーなのに、神様と称する同級生が犯人について話すというのも面白いのですが、この事件の経緯の謎は読み終わっても謎、という感じでずっと考えてしまいます。
後味悪いような、それでいて考え込むような、そういう本ばかり読んでいますが、気に入られるものがあると光栄です。
今年もどうぞよろしくお願いします。
Posted by kmy at 2007年01月03日 21:51
これは読まなければリストに入れなければっ!
この手の本は子供に読んで欲しいですよね。
大海赫(おおうみあかし)さんの本を
小学校の時に読んで「どうしよう!」と思ったのを思い出しました。
最近復刻?復刊?されているのでお勧めです。

今年もよろしくお願いしますね♪
Posted by 香香 at 2007年01月04日 21:07
香香さん、あけましておめでとうございます! 今年もどうぞよろしくお願いします。
読後に妙に落ち着かない気分を味わえること、まちがいない本です。
大海赫さんの本も何冊か読んだ事があります。本文も妙ですが、挿絵が好きです。オススメは何かしら? また紹介してくださいね。
子どもにはこっそり読んで気に入って欲しいようにも思います。お互いに話をするにはちょっと難しいかも。子どもは子どもの秘密の領域を持ってほしいと思います。
Posted by kmy at 2007年01月05日 16:53
・・・・・
読んでました・・・
読んだことを忘れてる自分にショックを
うけております。。。。。
・・・・・
Posted by 香香 at 2007年01月08日 06:31
香香さん、既読だったのですね。
読んでからしばらくたつとわたしも結構な割合で忘れます。
よかった気がする、とかは思うのですけど。ミステリーランドは半分くらいは読んでいるはずなのですが、ぜんぜん思い出せないもの、あります。(作者には申し訳ないのですが)
Posted by kmy at 2007年01月08日 11:20
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