2006年12月07日

『炎のなかの絵』

4152087099炎のなかの絵 (異色作家短篇集)
John Collier 村上 啓夫
早川書房 2006-03

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 これ、主に夫婦を描いています。結末がブラック。好みが分かれると思いますが、わたしは好きです、こういうもの。

 冒頭の「夢判断」は毎晩男が自分の勤める39階建てのビルから落ちていくという夢を見る男の話。精神科医の元で夢の話をするのですが、昨日とうとう2階に達し、そのときにこの精神科医のオフィス(男の勤めるビルの2階にある)を落下しながら覗いたという。そのとき、先生は自分のフィアンセと抱き合っていた。それを確かめたくなってこの精神科医の元に訪れたとも言うのです。
「しかし、先生」と青年は絶望的に叫んだ。「ぼくはもうすぐ地面にぶつかるところになっているんですよ」
(本文P15)

 この物語の結末は結末ではあるもの、読者にとってはその先のほうが気になるのです。ええっ? で、どうなったの?と。

 「保険のかけ過ぎ」は笑えるブラックユーモア。お互いがお互いを愛してやまない夫婦。もし片方が死んでしまったらどうしたらよいものか? そんなことを考えただけでお互いに涙があふれる。そんな夫婦がとった秘策は給料の9割を保険にかけて、もしどちらかが亡くなっても手元に残る保険金で死んだ伴侶を偲んで泣き暮らしていこう、というもの。さて、その結果は如何に? 
 「死者の悪口を言うな」ではドクター・ランキンが地下室にセメントを塗っているときに村の住人が訪ねてきます。夫人のアイリーンも留守のようだし、先生も不在かと思えば、地下室にいるのを発見。床から水がしみでたのでセメントを塗っているとドクター・ランキンは言うのです。ドクターの元にきたのは不動産斡旋人のパッド。水が出るなんてはずはないはずだと言い張るパッド。そういえばアイリーンはどこにいったんです?と聞けば知人の元に行ったというドクター。長年この地に住んでいるパッドたちはそんな知人はいないはずだし、アイリーンも見なかった……と言い、改めてセメントの床を眺め……。
 「クリスマスに帰る」「カード占い」など、どれも夫婦についての意地悪な見方と皮肉な結末が面白い作品。そして物語が終わった後に「このあとどうなる?」という余韻が面白い。あとがきでダールの「南から来た男」(『あなたに似た人』早川文庫 収録)に触れていますが、ジョン・コリアのこの短編集は皮肉な結末や余韻を残す読後感がダールと似ていると感じます。

 「異色作家短編集」を好んで読んでいますが、一作面白いものを読み終えると、別の短編が必ず読みたくなります。次はどうもってくる? たぶん、これはこうなるとは思うけど、なんて自分の中で巡らせながら、結末に至る過程を楽しんだり、ラストの一文を読んで「え?で、どうなる?」とその読後感の奇妙さに浸ることができます。とはいえ、挫折した短編集もあるんですけど、ね。
この記事へのコメント
短編集とエッセイは子供ができてから
よく読むようになりました。

なんだか気になるので読んでみようっ!!
と、思います。
Posted by 香香 at 2006年12月07日 22:34
いやはや、これも気になる短編集ですねえ。
人間って、よくありたいとは思っていても、こころの奥底ではやっぱり自分がいちばん可愛いし、誰よりも得していたい。
そこの本音のところをうまく掬い取ってるのがブラックユーモアじゃないかと思います。

さて、図書館のHPをチェックしてみなくちゃ。
今月はどのくらい読めるかしらん。
Posted by ヤヤー at 2006年12月08日 20:31
香香さん、この短編集はシリーズになっていまして、早川だけにSFとかミステリっぽいものが多いようです。これは面白い!というのと、あまりよくわからない、自分には合わなかったというのもありました。好みの短編集が見つかるかもしれません。

ヤヤーさん、異色作家短編集を一冊ずつ借りては読んでおります。この短編のあとがきにはダールのことに触れていて、ダールの短編集のあとがきにはコリアの名前が挙がっていて、ダールの好きな方にはオススメできると思います。結構夫婦の関係を意地悪く描いていて、うーん、新婚当時の甘い関係が「保険のかけ過ぎ」という作品にいたるような……。
Posted by kmy at 2006年12月08日 21:14
kmyさんの読書案内 好きだなあー。
どの本も読みたくなっちゃう。
わたしもちょっとブラックなの 嫌いじゃないから この本も楽しみです!
まだ年賀状もつくってないのに・・・
イソイソと図書館に通います。 

Posted by めぐりん at 2006年12月08日 22:36
めぐりんさん、いつもありがとうございます♪
年賀状、わたしも作ってないんです。誰に出さないか、とか悩みます。毎年のことだけど。
ブラックなものって「オチ」が効いていますよね。それがどうくるかな、って思うのが面白いです。思い通りに行かない結末、思いがけない方向へ進む結末。コリアの他の本も読んでみたいのですが、あいにく絶版です。(絶版といわれるとそそられますが)
Posted by kmy at 2006年12月09日 17:47
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