2006年11月27日

『あなたに似た人』


ロアルド・ダール,田村 隆一,Roald Dahl
Amazonランキング:14484位
Amazonおすすめ度:



 これ、凄いですよ。『チョコレート工場の秘密』を念頭において読んではいけませんね! かなり辛辣、グロテスク。ブラックな味が苦手な方には絶対にお勧めできません。
 どの作品も淡々とした語り口で始まることが多く、静けさや回想、めぐる考えなどが続く中、結末で一気に急降下する展開が持ち味の短編集。最初と最後で反転するような気分を味わえます。この短編はどれも読み終えた後、いったいこの先はどうなってしまったのだろうという後味がいつまでも残ります。

 よく出来ていると思ったのは『海の中へ』(原題"Dip in the Pool")。航行距離当て懸賞(オークション・プール)に大金を賭けたボティボル氏。思ったよりもスピードが出て航行距離がどんどん伸びていく。走行距離の少ない「低ナンバー層」に賭けたボティボル氏は負けが明らかになってきました。船が後戻りでもしない限り無理だ。そして考えたのがこんな方法。
そうだ、なぜできない? できなはずないじゃないか? 海はしずかだし、救助されるまで浮いていることなんか簡単じゃないか。だれかが、まえに、こんな真似をしたような記憶もないことはなかった。それだからといって、もう一度やっちゃいけないってことはないさ。そうなれば船はとまるだろうし、ボートはおろさなくてはならない。それから、おれを拾い上げるために、半マイルもボートはバックしてから、船までもどってきて舷側にひきあげられるんだ。
(本文P140)

 この方法で船は停止し、そして走行距離が確実に減ることを思いつくのです。そしてそれを実行に移すためにボティボル視は少しの間考えをめぐらせ、それから海へ。このお話の結末は読んでのお楽しみとして書かないでおきます。Poolはきっと懸賞と海とかけて使われているんでしょうね。
 『偉大なる自動文書製造機』も面白い作品です。自動で物語を作成する機械を開発したアドルフ・ナイプ。ボタンを微妙に調節するとさまざまな作品が瞬時に出来上がるというもの。さて、この機械をめぐっての結末もなかなかユーモアに富んでいます。
 『クロウドの犬』は、あの『チョコレート工場の秘密』の作者がこんなことを書くなんて!という印象を受けました。連作短編になっていますが、最初のものが結構グロテスクな感じで、あまり想像したくないような描写にあふれています……でも読んでしまうんです。
 
 少し余談めいてしまいますが『わがいとしき妻よ、わが鳩よ』に出てくる男の名前が「ヘンリィ・スネープ(綴りはHenry Snapeのようです)」というのでついついハリー・ポッターの魔法薬学の先生を連想させました(笑)彼のあだ名は「セルヴィックス(綴りはたぶんcervix)」だそうです。これが入っているペーパーバックの短編集の表紙が妙にスリザリン風な感じもします。『あなたに似た人』にも収録の「お願い」(原題"The Wish")をイメージしたものだと思いますが。
0141305533Skin and Other Stories (Puffin Teenage Books)
Roald Dahl Wendy Cooling
Puffin Books 2000-03-02

by G-Tools

この記事へのコメント
おぉっ。
先を越されました(笑)。
噂通りのブラック本ですね。
ダールは辛辣な目を持っていますよね。
それはやはり戦争体験がそうさせるのかなと思います。
お国柄的にも皮肉な物言いが許されてる。
多角的に物事を捉える目が養われているからだと思います。

まずはわたしも読まなくちゃ。
ブラックなものは大好きですから。
Posted by ヤヤー at 2006年11月27日 21:49
ヤヤーさん、お先です(笑)
子どもは読まないほうがいいですね。ラストですとんと落として突き放して「さあ、どうします」と言いながらにやりとしている作者の顔が浮かぶような、そういう短編ばかりです。
戦争体験についての関連は思いつきませんでしたが、なるほど、そういう見方を取り入れて読んでみるといいかもしれませんね。他の作品も読みたくなりました。図書館にあるといいのですが。
Posted by kmy at 2006年11月28日 16:35
ダールの大人向け作品の定番ですね。
巻末のあとがきでは、田村さんにこの本を紹介した植草甚一さんに触れているくだりがあります。植草さんという人も大変な人だと思います。海外ミステリの発掘やジャズ評論など、大衆文化における植草さんの功績はもっともっと高い評価をしてしかるべきと私は思っています。
ちまちまと田村さんに対して嫌味な文章を書いているどこかの翻訳家とはものが違うよ。
Posted by koi at 2006年11月29日 21:04
いつもおもしろそうな本のご紹介をどうもありがとうございます。

kmyさんの絶妙の書評にひかれて、ダールの児童書は少しかじってみました。大好き(『マチルダ』)とちょっとユーモアがグロテスク(『アホ夫婦』)と自分の中でも評価が分かれてしまうのですが、こちらは大人向けなんですね。だまされたと思って(?)、ぜひ読んでみようと思っています。
Posted by みちえ at 2006年11月30日 02:03
koiさん、初めて読みましたが、あとがきもおもしろかったです。田村さんが都筑道夫さんの文章も紹介していますが、このあとがきだと、ダール自身のこと、ダールが日本に紹介されたきっかけや関連しておもしろそうな作品など、いろいろなことがわかりますね。こういうあとがきを読むと、その後の読書につながると感じます。ちょうど「夢判断」(ジョン・コリア)も同じく借りてきていて、なんだかうれしくなったりします。
Posted by kmy at 2006年11月30日 17:28
みちえさん、これは結構ブラックユーモアが効いているので、好き嫌いが分かれるかもしれません。どちらかというとアッホ夫婦の系統に入るのではないか?と思うところがあります。

webでテキストを見つけましたのでリンクを載せておきます。買う前の参考になるのではないかと。
「南から来た男」かなりブラックかもしれませんが評価は高い作品です。
http://www.classicshorts.com/stories/south.html

「わがいとしき妻よ、わが鳩よ」のほうはグロテスクではないかもしれませんが、ある種の悪趣味なところがあります。
http://www.haroldschogger.com/my_lady_love.htm

Posted by kmy at 2006年11月30日 17:29
「あなたに似た人」というタイトルに魅かれて、何度となく書店で手に取っては結局買わずじまいだったこの本、ロアルド・ダールだったのですね。
仕事で「チョコレート工場」を読むまで、まったくダールという人を知らなかった私。ついに読む時がやってきたようです。
「偉大なる自動文書製造機」は、作家ならではの題材という気がしましたが、ロアルド・ダールでもそんな機械を夢見る瞬間があったのですね。
Posted by Helenaヘレナ at 2006年12月01日 16:26
ヘレナさん、タイトルもなかなか惹きつけられますが、内容を読んでみると、こういう人間のような一面があなたにもあるでしょう?という皮肉っぽさがまた素敵!と思うのです。
「偉大なる――」もラストが効いています。この機械も夢というよりも作家を凌駕する作品を作り出すというもので、そうなると作家の立場は?というのを描いていて、作家ダールはどうなる?というのが面白いです。
Posted by kmy at 2006年12月02日 19:50
ダールの大人向けの本、面白いですね。
もちろん、子ども向きも面白いけれど。(^^)
ますますブラックさが増して(笑)、何とも言えず素敵です。
Posted by ゆっこ at 2006年12月07日 21:42
ゆっこさんもダールの大人向けブラック味の短編集を好まれているようで、うれしく思います。
短編集はひとつ読むと、次の短編にさらに期待して、それを裏切らない結末でにやって笑いそうになります。
Posted by kmy at 2006年12月08日 20:55
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