2012年07月21日

『NHK「100分de名著」ブックス ニーチェ ツァラトゥストラ』



 ニーチェといえば「超人」。実際に、その言葉の意味するものについては分かっていなかった。ただ、超越するような人、というイメージだったのだが、全然ちがった。

 まず元となる重要な概念が「ルサンチマン」。うらみ、ねたみ、そねみに取り付かれることであり、「もし〜であったら・・・だったのに」「なぜ、・・・なのか」というどうにもできない苦しみや無力感だと著者は説明します。このルサンチマンに囚われると、自分はこう生きようという主体性を失うと説いています。ルルサンチマンから「善/悪」(神の視点、他人のため、人々のためから見てどうか)が生まれ、これは「よい/悪い」(自己肯定から生まれる価値観、自発的)とは異なるというものです。この「善/悪」の価値観をまずは捨て去ることが「神は死んだ」という有名なフレーズにつながっていく。

 キリスト教的価値観が崩壊した後生まれる「末人」と「超人」。この末人というのは、まさに現代的な人々と思えてしまう。著者によれば「愛も憧れも創造も知らず、健康に気を配り、労働も慰み程度に必要とし、平等で貧しく富んでもおらず、わずらわしいことはすべて避ける。安楽を唯一の価値とする人間たち」(P55)が末人だが、日々の生活が安穏としていればそれでいい、と思ってしまう。無用なことをしたくない。なるべく平穏に生きたい。そんな風に考えてしまう。しかし、このような末人になるのではなく、高揚感と創造力を持った超人を目指せと説く。超人は「幼子のイメージ」というが、そういえば『2001年宇宙の旅』はニーチェを意識していると言われるが、確かに、このイメージに重なる、とふと思い出した。

 そして、「永劫回帰」へつながるが、今生きていることを常に肯定できるような人生を送るということと理解した。理解はしつつも、ルサンチマンから脱するというのは難しい。「もし〜だったら」の世界を捨て、今現在が苦しくとも、それが必然だと受け入れる。生きていくというのは難しい。このニーチェの考え方を少し理解すると、現在が生き易くなるというのではなく、自己を肯定し、現在を肯定していくといのは非常に困難に思えてきてしまう。

 最後の斎藤環氏との対談を読むと、少し希望が見える気がする。ニーチェの思想を受け入れ、自己肯定的な生き方を是としていくのは大切なのでは、と感じる。「こっちよりあっちのほうが」という比較の思想で考えるのではなく、自分はどうしたいか、が大切なのだと感じる。斎藤氏によれば、「人の正しい生き方は自分の欲望を諦めないこと」であるものの、自分が何を欲しているか分からない状況にある。しかし、世間から評価される自分ではなく、自分が本当に「わくわくする」ことを考えるといいという。

 ニーチェについて読んでみると、先に読んだ『約束された場所で』のオウム信者のことを思い出した。自分がしたいということをするのではなく、善とされることを与えられて行う人々であり、自身を肯定するのではなく、他者に肯定されることを望む人々という感じがした。

 せっかくこうした思想に触れたのだから、忘れないで心に留めておこうと思っている。なかなか「超人」になることは難しいとは思うのだけど、それでも自己を肯定し、今どうすべきかではなく、どうしたいかを考えていこう。
 
この記事へのコメント
社会が「他者に肯定されることを望む人々」を大量に生み出さないようにするには、自分の楽しみを自分で見つける行為を幼い時から繰り返しする以外にない…という気がします。

そこは、子を育てる親の意識(でも、その親たちも子ども時代に経験していないことを、我が子には伝えられないですよね)の持ちようや、学校などの教育機関の責任は大きいと思います。

でも、残念ながら他者の評価に価値を置く風潮はますます強くなっているのでは?

社会学者の本は読んでも、哲学書って私はあんまり読んだことがないのですが、面白そうですね。
読んでみようかなと、kmyさんの文章を見てそう思いました。
Posted by ネムリコ at 2012年08月25日 01:32
ネムリコさん
他者の価値で生きるのではなく、自分自身で自分を肯定するという考え方はとても納得がいきますが、実際に、ニーチェの思想を実践しようと思うと、本当に厳しく難しいものだと感じます。
他者に認められる生き方は心地よく、自分で責任を取らなくてよく、楽な道かもしれません。それでも、こうした思想を知り、心に問いかけてみる、というのは大事だと感じます。
教育でも大事ですよね。自分は何をしたいのか、何を目指していくのか。

なかなか思想系の本は原典を読み通したことがなく、この本でポイントを掴めたように感じます。神は死んだという言葉の意味が分かったように感じます。知ってしまうと、自分の生き方に悩むものかもしれません。
Posted by kmy at 2012年08月25日 19:01
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