2006年11月03日

『おとうさんがいっぱい』

4652005148おとうさんがいっぱい (新・名作の愛蔵版)
三田村 信行
理論社 2003-02

by G-Tools


 怖い。表紙のイラストとタイトルとは裏腹に、終わりのない怖さを感じる作品集です。
 表題作をはじめ、『ゆめであいましょう』『どこにもゆけない道』『ぼくは五階で』『かべは知っていた』の五作。この中でも怖いのが『ぼくは五階で』。

 一番印象的だった作品を紹介します。

 『ぼくは五階で』

 ナオキの両親は共働きでナオキは家の鍵を持っています。ある日、団地の五階の自分の家に帰ってきてから野球にでかけようとドアを開けようとしましたが、いつもは内側にあくはずのドアが開きません。外側へ押してみたところ、ドアが開いたのです。やっと外でられると思ったナオキが見たものは相変わらず自分の家のたたきにいたのです。ナオキは何度もドアを押して出ようとしますが、どうしても自分の家の玄関にいるのです。仕方ないのでベランダごしに隣の家から出さしてもらおうと、ベランダを乗り越えて隣の家に入ったのですが、ナオキが出たところはまたもや自分の家でした。いろいろなことを試みてなんとか外に出ようと思うのですが……。
 
 どうやっても自分の家から出れないナオキ。このラストはかなり残酷です。終わりがない試み。終わりのない話。この物語が終わることはあるのでしょうか? ナオキはいったいどうなってしまうのか……余韻を残して終わります。ほっとする瞬間、よかった、と思えるような展開はひとつもない、まさにホラーです。

 どの物語も少年が主人公で、当たり前の日常を過ごしていたはずなのに、今日に限ってなぜか「日常」が消失する。おかしいな、と思い、その状況をなんとか抜け出そうと思うものの、元に戻ることはできない。ただ、変わってしまった世界でどう生きていくか――答えは書かれていない。
 この後どうなったんだろう? どの物語も終わったあとが気にかかかって忘れられない気がします。そして、自分を取り巻く状況も、常に「いつも」があるとは限らない。そう感じる物語です。自己をとりまく状況が突然消えていくこと、自分はどこへ行ったらいいのか、これからどうしていくかという極限の状況に置かれるというのは恐怖なのかもしれません。佐々木マキのシュールな絵がまた怖さを増してくれています。

『おとうさんがいっぱい』はこちらの本にも収録されています。

オンライン書店ビーケーワン:地球最後の日

『地球最後の日』(SFセレクション)赤木かん子さんセレクト
那須 正幹〔ほか〕著 ポプラ社

 このシリーズ、たびたび借りてきて読んでおります。さらさらっと読めるのですが、結構印象的な作品があります。この中の『おとうさんがいっぱい』を読んで奇妙な読後感を持ったので、読んでみました。他の三田村作品もこれから読みたいと思っているところです。

参考サイト:
児童文学評論
日本児童文学100選(偕成社)上野瞭
児童文学の魅力 日本編(ぶんけい 1998)上野瞭

ズキズキどんぶり
おとうさんがいっぱい

細谷建治の『童話ノート』:
三田村信行『おとうさんがいっぱい』
posted by kmy at 19:36| Comment(4) | TrackBack(0) | 三田村信行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
kmyさん、こんにちわ
 最近kmyさんの紹介する本は、どうも私の琴線にふれるものが多いようです。

 これ「世にも奇妙な物語」に使えそうですね。最後にタモリが出てきて「次に奇妙な世界を訪れるのはあなたかもしれません」なんて言うとコワさは減ってしまうでしょうけど・・・本で読むともっとコワそうですね。探してみます。
Posted by ぴぐもん at 2006年11月05日 17:08
ぴぐもんさん、この本は妙な居心地の悪さが病みつきになります。結構古くからの本ですが、再出版されたものです。
全部が奇妙な話で、現実から一歩踏み出したところにある怖さ、というのがあります。「世にも奇妙な物語」的な雰囲気、ありますよ。普段ドラマを見ないわたしでもあの短編ドラマはよく見てました。原作あるかも、とエンドロール見ながらメモ取り忘れた記憶が。
この本にある『かべは知っていた』という話も思うことがいろいろあって、記事にしてしまいました。
Posted by kmy at 2006年11月06日 12:45
読みました!
面白かった!
星新一さんのショートショートを思い出しましたけど、彼の書くものはもっとあっけらかんとしていて、毒が少ない。
それに引き換え、三田村さんの物語はちょっと背筋がぞくっとするところが。
子どもってけっこう怖い話がすきですよね。
ダールの本もブラックジョークが多いけれども、子どもに人気があるというのは、逆にそういうところなのかも知れませんね。
Posted by ヤヤー at 2006年11月21日 14:59
ヤヤーさん、面白いでしょ♪
ぞくぞくしますよね。終わりのない怖さというか、非現実的なようでいて、ありそうにも思えてきて。そういう作品ばかり集めてある本でした。
他の本もぽつぽつと読んでいますが、これはやっぱり凄い!と思っています。
ダールの大人向け短編集は本当にブラックで、結末を読むと、「え、じゃあその後はどうなっちゃうの?」というあたりがやっぱり面白いと思います。ラストでほっとするのではなく、ラストの後が気になる点は似ていますね。
Posted by kmy at 2006年11月22日 16:25
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