2006年10月23日

『パニック』のような

「去年までこんなこと、なかったのにねぇ」
 近所のKさんが嘆く。
「どこの家でも出るみたい」
 本当にこのごろ、よく聞く話――今年はねずみが例年になく多いようです。

 築10年程度の新しい家に住んでいる家族には無縁の出来事らしいのですが、古い町並みでも有名なこの町は、古い家が多い。我が家も例外ではない。よなかにかさかさ言う物音。もしかして、ねずみ? 嫌だな。やっぱり古いから出るんだろうか、それとも何か散らかしていた? なんでうちに……と思っていたら、うちだけではなかったのです。あちこちで聞くねずみのうわさ。

「どこから入ったのか、子どもの机に入っていたミルキーをかじってた」
「夜、あの道路横切ってくの見たって」
「あの昔ながらのねずみ捕り、あるでしょ? ぱっちん!ってやつ。あれでね、もう何匹も取れたんだって」

 毎年冬に殺鼠剤が配られるのですが、今まで見たことがなかったので使わずに捨ててしまうことが多かったのです。今年はいつも12月に配られている殺鼠剤を早めに配るので希望者は地区の委員に申し込んでくださいという回覧が来ました。確かに、あちこちでねずみが出る話を聞きます。かじったかぼちゃにいんげんを詰め込んでいったねずみがいたと友人に聞きました。笑い話みたいだけど、実際、ねずみといえば細菌、ウィルスもあるようなので笑ってばかりはいられません。我が家は裏の物置付近が怪しいということがわかって、べったり張り付くねずみマットを置いたところ、見事かかりました。



 実際かかったねずみって結構かわいいんですよ。茶色ですべすべした毛並みで、小さくて。友人も「ちゅうって鳴いたよ」と半ば感動(?)していました。今日、殺鼠剤の用紙を出しに言ったら、やっぱりねずみの話。

「ほんとにこのごろ多いんだってね。でもうちは猫を飼ってるから、昔はよく子どもの寝てる横、走ってたけど、今はねずみ見ないねぇ。ああ、猫が捕って来て食べてるのは見るから、結構いるんだろうけどねぇ」
「うちの猫はねずみ捕ってきて、食べんと、障子に放り投げるもんだから、怒ってねぇ」
 そういえば近所で猫飼っているお宅多いんです。このあたりって愛玩というより実用だったのかも!? ねずみ、食べるそうですよ。

 それでもって、この最近の状況は開高健の小説『パニック』を思い起こさせます。ササの実の大豊作とねずみ大発生という因果関係にいち早く気付き、農学者らとともに対策を提出する下っ端官僚の主人公俊介。しかし、官僚制度の腐敗の中、対策書は当然のごとく通らない。そうこうしているうちに状況は悪化。ねずみは手に負えないほど増えている。俊介は良心とか官僚としての役割遂行という正義感とは違ったものを心に抱きながら、状況を見守り状況にあたる様子を描いています。農学者との会話の際の文章――。

連日連夜、東奔西走してネズミの大群と格闘する。その欲望を支えているものがじつは戦争ごっこのスリル、一種の知的遊戯に近いものであるといったらこの男は満足するだろうか。(P42)

ねずみについての描写も恐ろしいですが、主人公が戦っているのは官僚機構ではないのです。小ざかしく立ち回る官僚たちとは別のところで自身の成果を昇進に生かすのではなく、「知的遊戯」として見つめているというのが、組織社会の中での個人について考えさせられます。
4101128014パニック・裸の王様 (新潮文庫)
開高 健
新潮社 1960-06

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 『パニック』のような状況にならないといいのだけど。ちなみに娘は爆チュー問題のマスコットをかわいがっています。
posted by kmy at 21:22| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ネズミ、我が家にも出没していた時期があります。
まだ新築して4〜5年しか経っていないのに、上がりかまちの壁に穴を開けちゃって、そのままにしていたら居間にまで上がり込んで壁に沿って走って行ったりしてました。
穴を塞いだら、いなくなりました。ほっ。
猫は役に立ちますよ(笑)。

じゃなくて、ここから『パニック』を思い出すkmyさんってすごいです。
これもまた未読なんですけど、面白そうです♪
ありそうにない事件・・・とはいっても、実際に起こったらこんなふうに思うのかも。なんだか小説ならではの面白さがありそうですね。

ネズミ、こないだイモ掘りに行ったときにも一匹見つかって、子どもたちは「カワイィ〜♪」と大騒ぎでした。おバカ・・・。
Posted by ヤヤー at 2006年10月23日 22:06
ヤヤーさんちにも出没していた時期があったのですか! このごろ、地区全体でねずみが増えているようで、どこへ行ってもねずみの話を聞きます。かわいいといえばかわいいのでしょうけど、うーん、ハムスターも飼う気にはならなくなります。
パニック』は実際的、現代的な小説で、ねずみが増えている様子がとても「物語」とは思えません。主人公はその様子をよくわかっているのですが、出世の手段にはしないし、かといって対策について信念を持っているわけでもなく、というのに個人としての魅力を感じます。久しぶりに読み返してみました。
ねずみといえば普通は「ハメルンの笛吹き男」かもしれませんね。
Posted by kmy at 2006年10月24日 16:34
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