2006年07月05日

『マチルダは小さな大天才』

4566014258マチルダは小さな大天才—ロアルド・ダールコレクション (16)
Roald Dahl Quentin Blake 宮下 嶺夫
評論社 2005-10

by G-Tools



 『天才ダールのとびきり料理』を見ていたら、読みたくなったのが『マチルダは小さな大天才』。ダールのこの作品を読んだのは大人になってからですが、お気に入りのひとつです。
 マチルダの両親と言うのは大変ひどいひとたちで、父親はインチキ商売にせいをだし、母親は子どもをおいてビンゴに夢中。2才で字が読めるようになった自分の娘のことなんかおかまいなし。むしろ、ひどい悪がきだと思っています。マチルダは自分で図書館に行き、ディケンズやオースティンなどつぎつぎに読破していき、4歳になったある日、ようやく小学校に入学します。そこでは理解者ミス・ハニーと出会いますが、また恐ろしい敵の女校長ミス・トランチブルにも出会います。この校長がまた凄い! 
 ひどい両親を機転でやり込めたマチルダは、ミス・トランチブルに対しても計画を練ります。ミス・トランチブルは子どもが大嫌いで、いたずらした子どもを「ザ・チョーキー」という狭い戸棚(壁はセメントで出来ていて尖ったガラスが埋め込まれ、ドアには釘が何千本も売ってあるという凄いもの)に閉じ込めたり、三つ編みおさげが嫌いだと言ってそれを三つ編みを持ってハンマー投げよろしく振り回して子どもを飛ばしたりするのです。それ以上にすごいことが後で明らかになりますが、ネタばれはおいておいて。と。ダールのお話の作り方がうまくて、なるほど、こういうわけだったの、というようにつながっていくあたりが楽しく読める作品です。 
 この作品の翻訳は宮下嶺夫さんなのですが、お話そのものの筋を訳すという感じで、凝った韻文も出てこないのでさらさらっとひっかからずに読めます。名前などもダールなりの遊び心で工夫しているようですが、意訳はせずにあとがきで意味などを解説しています。個性的な訳文ではない、というのもいいのかもしれません。

 この物語でダールの物語に対する考え方が読み取れます。
「おもしろかったのは、どんな本?」
「『ライオンと魔女』がおもしろかったです。わたし、ミスター・C・S・ルイスはとてもよい作家だと思います。でも欠点もあります。物語にこっけいみがないんです」
「ほんとうにそうよね」
「ミスター・トールキンにもあまりこっけいなところがありません」
「あなたは、子どもの本はみんな、こっけいなところがないければいけないと思うの?」
「そう思います。子どもって、大人ほどまじめじゃないんです。笑うのがすきなんです」(本文P112〜113)

 ダールの本というのは、いつも笑わせるような内容やことばが入っていて、そこにも魅力を感じます。ここでイギリスの二大ファンタジーに言及されているのも興味深いところなのですが、『ハリー・ポッター』との比較についても考えさせられる部分でした。ハリーにも「こっけいみ」がかなり含まれているところでダールを想起させるのかもしれないと改めて思いました。わたし自身、どちらかというと『指輪』などのファンタジーよりもダールの面白さに近いものが『ハリー・ポッター』にあるような気がします。ちなみに、『ハリー・ポッター入門』によると、マチルダの両親ワームウッド夫妻はダーズリーに似ているとありますが、いかがでしょう? ぺチュニアおばさんはレトルト食品を作ったりしませんが、ハリーとダーズリー夫妻の関係は本当の親子ではないけども、、とにかく「どうしようもないやつ」だと感じているあたりや、子どもの才能を伸ばそうとしない保護者であること、ちょっとした会社の経営者の夫妻という設定なと、類似点が見られます。
 あとは、マチルダのケーキを作ってみようと思っているところです。

〜ちょっと覚え書き〜マチルダに出てくる気になる飲み物
オバルティン:ミロのような麦芽飲料のようなもの。参考:オバルチン
ボブリル:流動性の牛肉の瓶詰め。温めてスープのように飲む。日本では「アンティークボトル」で知られているよう。
posted by kmy at 14:30| Comment(9) | TrackBack(2) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これは私もダールの作品のなかでも イチオシです!・・・といっても もう10年以上前に読んだものなので 詳細を忘れているんですよねー。久々に読みたくなりました。
ダールって 実は深刻なテーマをサラリと笑いに変えられる 素敵な人ですねー。
Posted by めぐりん at 2006年07月06日 18:14
めぐりんさん、この作品、本当に一押しです! この作品自体、それほど古くないですけど、それでもずっと子どもと大人、現代にも訴える力がありますよね。むしろ、今の方が子どもをほったらかしにして自分のことにかまけたり、倫理観をわすれた商売をしている大人が多くなってきているように思います。
『マチルダ』を読むと、ディケンズとかヘミングウェイとか読んでないものばかり出てきて、読まなきゃ!という気になりつつ、実現していないのがいつも気になります(笑)
Posted by kmy at 2006年07月07日 14:20
実をいうとこれ未読なんです(大汗
きのう借りて来ようと思ったら、どこかの誰かが延滞したまま一ヶ月。
リクエストして来ました。
『チョコレート工場』のほうは、以前のハードカバーもそのまま蔵書としておいてあるのに、『マチルダ』は処分されてしまったようです。
ここいらへんも、図書館としてのあり方にちょっと疑問・・・。
絶版書、希有本が見たくて行くこともあるのに。

愚痴はさておき。
ダールのすごい所は、きちんとほかの本も読んでいるなあということですね。同じ批判するにしても知らないものは出来ませんし、耳を傾ける人もいないでしょうし。
更にいえば、『ナルニア』も『指環』もまともに読んでいません。
マチルダの言葉を借りれば、確かに「こっけいみ」が足りなくて、子ども心に読む気がしなかったのかも知れません。
ハリーとの比較はさすが!ですね。言われてみて納得です。
ほんとは大人だって駄洒落って大好きですしね。
ノリのいい文章でいつの間にか読み終わっている、というのが、子どもにとって本が好きになる条件のひとつに思います。
Posted by ヤヤー at 2006年07月07日 14:59
この作品は、私も一押しです。ブレークのイラストも本当にハマッテいて大好きです。
宮下嶺夫さんの訳はオーソドックスな訳で奇をてらったところはありませんが、マチルダが自作のリメリックを披露する場面では、リメリックふうに訳しています。あとがきにはそのことは何にも触れていないところが心憎いところです。リメリックの説明はありますが。
宮下さんのあとがきを読むまで、『ハリー・ポッター』が出版される前は、イギリスでは児童書では毎年年間一位の売り上げを記録していたというスゴイ本だとは昨年まで知りませんでした。
日本では『チョコレート工場の秘密』ばかりが売れている傾向が強いようで、『マチルダ』はどうもイマイチのようです。何はともあれロアルド・ダール最晩年の傑作のこの本、日本でもっともっと売れてもいいのになあと思っています。
この作品でも、テレビばっかり見てるんじゃない、もっと本を読もうよというダールの主張は貫かれていて、この点でもダールの集大成という感じがします。
ロアルド・ダールに限らず、日本のものに比べると海外の作品のほうが、けっこう社会性が出ているような気はします。『ついすマチルダ』では、チャールズ・ディケンズが一押しの小説家として取り上げられていますが、イギリスでは今日でもその人気は高いようですね。私はディケンズは『クリスマス・キャロル』ぐらいしか読んでないので、「オリバー・ツイスト』などもいずれ読んでみようと思っています。
Posted by koi at 2006年07月08日 03:29
ヤヤーさん、『マチルダ』旧版が処分されてしまったなんて、驚いています。翻訳も同じ方で以前読んだときと新訳とでそれほど印象が違わず、どこを直してあるか実はわからなかったのですが、『チョコレート工場』よりも新しい本だと思いますし、処分するには早いと思いました。
この本は本当に面白いです。『チョコレート工場』は家族の温かさを描いていましたが、こちらは逆に現代社会でも問題になる、本当の身内なのに、その才能を伸ばすどころか、自分にしか興味がない親というところも面白いです。子どもにとって敵はいっぱいだけど、子どもなりにやり抜くところが面白い。『ナルニア』『指輪』、確かにまじめな部分が多くて、心から笑うというのとは少し違いますよね。(『ナルニア』はあまり覚えていないですが)
コメントありがとうございました♪

koiさん、『マチルダ』は本当に面白い作品ですよね!
わたしももっと『マチルダ』が読まれていてもよいと思います。子どものころにはありませんでしたが、ダールの中ではオススメしたい本ですし、さくさくと一気に読めてしまうのが魅力です。ハリー・ポッターの関連本でもたびたびダールとの比較があり、子どもたちにもっとも指示されている作家の一人としてダールがでてきます。
マチルダが次々と読んでしまったイギリスの文学、わたしも読んでみようと思いつつ、なかなか実現していません。
コメントありがとうございました♪
Posted by kmy at 2006年07月09日 12:59
kmyさんとコメントを書かれたみなさんの絶賛に後押しされて、早速『マチルダ』を注文してしまいました。ロアルド・ダールは初めてです。kmyさんのおかげで新しい作家に出会えて、感謝しています。

Posted by みちえ at 2006年07月11日 20:52
みちえさん、『マチルダ』購入されたとのことですが、きっと英語の原書ですよね? ダールの作品は子どもVS大人という対立が見られて、大人の都合を押し付けることについてなどについて考えさせられると同時に、そんな大人に負けない子どもたちの様子がとても面白いのです。
『マチルダ』、楽しく読めますように!
Posted by kmy at 2006年07月12日 16:42
kmyさま、私も「マチルダ」大好きです。恥ずかしながら、ロアルド・ダールの作品をさほど読んでいないのですが、「チャーリー」より面白いと思います。夏休み前のブックトーク(テーマは「変な友だち」)で、5年生に紹介しましたが、マチルダのお父さんとミストランチブルの二人のどうしようもない大人にスポットを当てて話すと、子どもは興味を持つようです。トラックバックさせていただいた記事も、ミストランチブルの破格の悪い先生ぶりが面白かったので、紹介したものです。
ダールの作品は、なんでも極端に描写されていて、そのあたりが読者を惹きつける気がするのですが。あっ、でもそんなに読んでないので、わかりませんが・・・。
Posted by Helenaヘレナ at 2006年07月19日 11:57
ヘレナさん、TB&コメントありがとうございます!
わたしもそうは言ってもダール読破していないので(汗)、個々の読んだ作品についてあれこれ述べるに過ぎませんが、ダールの本は大人に媚びていないところが好きです。こうあるべき見本のようないい子どもばかりではないですし、『マチルダ』も大人をやり込めるために考え抜いたいたずらを実行しますが、自ら切り開く力というか、自分自身の力を出すというか、そういうことがとても好きです。
チャーリーは言葉遊びや空想のお菓子などが魅力ですが、『マチルダ』はそういうところよりもミス・トランチブルのあくどさやミス・ハニーとマチルダの関係などに心が動きます。極端な描き方なのに、「本当にそうだって言っても親は信じない」というのは現実味があると思いました。
TB記事の『いつもちこくのおとこのこ』も大好きです。未読の本も多いので、参考に読みたいと思っています♪
Posted by kmy at 2006年07月19日 15:53
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

悪い先生ってどんな先生?
Excerpt: 「いい先生ってどんな先生」で、展示した本は以下の通り。 「ありがとうフォルカーせんせい」(岩崎書店) 「てん」(あすなろ書房) 「ピーボディ先生のりんご」(集英社) 「菜の子先生がやってきた!」(福..
Weblog: マダムHelenaの極楽Librarian日記
Tracked: 2006-07-19 11:34

『マチルダはちいさな大天才』
Excerpt: これ!文句なく面白いっ。
Weblog: おかめはちもく。
Tracked: 2006-08-20 23:22