2006年06月19日

「子どもたちが屠畜ごっこをした話」

 グリム童話初版にはあって、後の決定版では削られたお話です。確かに残酷なのですが、このお話が2つあるというのもなかなか興味深い気がします。

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                   T

 西フリースランドのフラネッケルという町で、5つか6つくらいの女の子や男の子たちが一緒に遊んでいました。ひとりの男の子が豚をつぶす人、別の子が料理人、三番目の子が豚の役をやるようにまとまりました。女の子たちもそれぞれ、料理人、ソーセージを作るのに豚から流れた血を器で受ける下働きをやることになりました。さて申し合わせた通り、豚つぶしの役の子が豚役の子に飛びかかって押し倒し、喉を切り開いたところ、下働き役の女の子が自分の持っていた小さな器で血を受けました。そこにたまたま通りかかった町の議員がこの悲惨な出来事を見てしまい、すぐに豚つぶし役の子どもを議長の家へ連れていったのです。そこで、議長は議員をすべて呼び集めました。全員でこの問題について討議したのですが、この子をどのようにしたものかわからなかったのです。というのも、子どもの遊び心でしたことだとわかっていたからです。議員の中にひとり賢い年寄りがいて、みなへこう口ぞえしたのです。おいしそうな赤いりんごとライン河沿いで使われているグルデン銀貨を裁判長の手にそれぞれ持たせ、子どもを呼んで来る。同じように両手を子どもに差し出してみよ。子どもがりんごを手にとったなら、まだまだ責任を問えるものではないが、グルデン銀貨をとったなら死刑に処すべきだ、と。言われた通りにしてみると、子どもは笑いながらりんごをつかみました。そういうわけで子どもは無罪になったのでした。

                   U
 昔むかし、お父さんが豚をつぶしたしたことがあり、その様子を子どもたちが見ていました。午後になってみんなで一緒に遊ぼうということになり、ひとりが「おまえが豚になって、ぼくが豚をつぶす人をやろう」と言って、弟ののどにナイフ抜いて突き刺したのです。お母さんは2階で一番下の子どもをたらいに入れて、湯浴みをさせているところでしたが、叫び声を聞いて慌てて下へ駆けつけ、どうしたものかと見たとたん、のどからナイフを抜くと、怒って豚つぶしの役をしていた子の心臓に投げつけました。そのあとすぐにお母さんは上の部屋に戻って、湯浴みをしていた子どもの様子を見ましたが、しかし、そうこうするうちに下の子どもは溺れ死んでいたのです。そういうわけで、お母さんもすっかり恐ろしくなって、望みも消えてしまい、下男下女が慰めるのも聞かず、首をくくって死んでしまいました。お父さんが畑から帰ってきてこのありさまを見ると、悲しみにくれて、まもなく死んでしまいました。

元テキスト:SAGE.atWIE KINDER SCHLACHTENS MITEINANDER GESPIELT HABEN
kmy訳
岩波文庫版 完訳グリム童話集1(金田鬼一訳)にも掲載されています。
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 なんだか妙なお話なのですが、どちかというと、Uのほうがまとまりがいいような気がします。Tは現実的に物語を収めているようにも感じられます。読み聞かせするにはどうか?とも思いますが、こういうお話も民衆の間で「娯楽」として伝えられ、編集されてきたのかと思うと、やはり何か惹きつけられるものを含んでいるのかもしれません。一度読んだら忘れられない話であることは確かです。
posted by kmy at 13:19| Comment(6) | TrackBack(0) | グリム(童話) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
kmyさん こんばんは。

わたしの持っている「こぐま社」の「子どもに語るグリムの昔話」全6巻には、やはりこれに類するお話はないようです。
こういう残酷なお話は 子供には読ませたくない ということなのでしょうか。

でも、Uの方なんて、4人も人が死んでいるのに、しっくりくるし、Tの方は、最後気が抜けちゃいますが、どちらも、妙にストンとした結末なんですね。
そういった、ストンとお腹の中に収まる感じが、このお話の魅力なんでしょうね。
Posted by noel at 2006年06月21日 23:03
noelさん、子どもに読ませたくないお話なのかどうか、という基準というのは難しいものですよね。
子どもたち自身の手で行なわれたというお話だからなのかも、とも思いました。他にも死んでしまうお話はあるのですが、決定版にも残っているお話がある一方、削除したお話があるというのが面白いですが、それでも、完全な「削除」として消えていったのではなく、残っているということにも興味が沸いてしまいます。
コメントありがとうございます♪
Posted by kmy at 2006年06月22日 13:16
kmyさん、このお話読んでみたいと思っていたので、嬉しいです。
同タイトルで二つの筋があるのは、よく聞きますが、大体が結末が多少違うくらいではないでしょうか。ここまでまるっきり、違っているのは面白いですね。

Uの方は、不運が不幸を招いたという点で、物語性が強い気がしますが、
Tにいたっては、不幸も物語も感じられないという点で、こんなことが現実にあったかもしれない、と思ってしまいます。
グリム童話は伝承を物語化した、という風に記憶していますが、もしかしたら、昔の三面記事的事件を下敷きにしているのでは・・・?

残酷な物語を子どもに読ませたくない、というお話で思い出したのが、
「三びきのやぎのがらがらどん」です。
この本、“子どもにすすめたい本”の中には必ずといっていいほどリストに入っていますし、図書室でも置いてありますが、読んでみるとけっこう残酷なんですよね。
最後は大きいやぎがトロルのめだまをつのでくしざしにして、ひづめで肉も骨もこっぱみじんにしてしまうのですから。
これは、子どもの発達過程を本にしているという説がありましたが、人間というものは生来残酷性を持っているということでしょうか?
面白かったです。ありがとうございました。
Posted by Helenaヘレナ at 2006年06月22日 14:08
ヘレナさん、読んでいただけて光栄です。このお話は他のグリムのお話と少々違っているようにも感じますね。Tは地名が具体的に挙げられていますし、裁判などの近代的な雰囲気もあったりしますし。Uのほうは物語という感じがします。実際にというよりもみんないなくなったということで、マザーグースのTen Little Niggersを思い起こします。グリムが特別というわけでもないように感じます。
『三匹のやぎのがらがらどん』は子どものころ好きで(そう考えてみると好きだというのも面白いです)、子どもが生まれてからつい購入しました。残酷性というよりは、人間が乗り越えるものを象徴的に簡潔にして描いているのかもしれません。でも、豚のお話は違うようですけど。
コメントありがとうございました♪
Posted by kmy at 2006年06月23日 13:42
kmyさんこんにちわ
 Uの話はどこかで読んだ記憶があります。Tは初めて知りましたが私もUのほうが物語としてまとまりがあるように思います。Ten Little Nigger に比べるとちょっと血なまぐさいけれど・・・
 子ども、というか人間って皆どこかに残忍性を持っていてそれを上手く消化するためにこんな話とかブラックユーモアを言ったりするんじゃないぢしょうか?
 「ひなまつり」の替え歌みたいに。
Posted by ぴぐもん at 2006年07月03日 18:46
ぴぐもんさん、こんにちは♪
Uのほうが残酷なので、少し前に流行った残酷なグリム系に入っていたかも?しれません。「ひなまつり」の替え歌なども、子どもが喜んで歌ったりしますよね。ああいうのを全部禁止してしまうと返って抑圧されたものが爆発するかも、などと思ってしまいます。人間、いいところばかりで出来ているのではないから、悪の気持ちをどこかで解消させているというのはそうかもしれない、と思います。
Posted by kmy at 2006年07月04日 15:07
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