2006年06月12日

コルベスさんのような日

 とっても早く起きなくてはいけないある朝のできごとです。まだ薄暗い中、電気をつけようとしたら、子どもいすにつまずいて転び、いすに絡まったせいで、足がじんじんと痛みました。コーヒーでも飲もうとやかんでお湯を沸かします。ぼんやりしてはいるものの、何か焦げ臭い臭いがする――木のおぼんがガスコンロの火に触れていて、燃えていました。気づいたときにはもう遅く、焼け焦げていました。(でも、使えそう) そのあと洗濯物を干そうとしたら、大きな洗濯ばさみをつかみ損ねて、跳ね返っておでこを直撃! 何か、こんな話があったような、と。そうそう、「コルベスさん」です。

オンライン書店ビーケーワン:グリム童話集 2

『グリム童話集 2』 金田鬼一訳 岩波文庫(「コルベスさま」収録)

『グリム童話』に「コルベスさん」というお話があります。

 おんどり、めんどり、ねこ、石臼、たまご、カモ、留め針、縫い針が一緒にコルベスさんのお宅へ行くのです。コルベスさんは留守だったので、めいめいがあちこちに隠れます。果たして、コルベスさんが帰ってきました。ストーブで火をおこそうとしたら、猫が灰をかけました。台所で灰を落とそうとしたら、カモが水を跳ね飛ばします。顔をふこうとタオルをとれば卵がでてきてぐちゃっと割れて目にはりつきます。休もうと思っていすに腰掛けると、留め針がコルベスさんを刺しました。怒ってベットに横になって枕に頭を乗せると縫い針がちくっと刺しました。びっくりして外へ飛び出すと、石臼が落ちてきてコルベスさんを殺してしまいました。コルベスさんは本当に悪い人だったにちがいありません。

 さらっとかけてしまう、こんなお話です。コルベスさんは何でこんなひどい目にあうのか?という疑問がありますが、「猿蟹合戦」とよく似たお話です。ちなみに、初版本では「コルベスさんは悪い人」とはかかれておらず、こんなひどい目に遭うのだから「悪い人にちがいない」と思ったグリムが第3版で書き加えたそうです。岩波文庫版には解説として「コルベス」というのは情け知らずの乱暴いちずの怖い人。その姿を見ると子どもがおびえると言い伝えがあると書かれています。これについて鈴木晶氏が「暴力のための暴力」という快楽の要素だけを取り出した話であり、「ブレーメン」や「猿蟹合戦」は泥棒退治や敵討ちという大義名分で隠しているようにみえると話しています。(『グリム童話/メルヘンの深層』

 でも、なんとなくこのお話好きというか忘れられません。心に潜む暴力への快楽を物語という形で体験してしているのでしょうか。というものの、この日はわたしがあやうく「コルベスさん」になるところでした。石臼が落ちてこなくて本当によかったかも(笑)
posted by kmy at 10:49| Comment(4) | TrackBack(0) | グリム(童話) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ほんとに、こうしてkmyさんに紹介して頂くまでグリムにこんな話があったことも知らないわたしです。
今回の『コルベスさん』、わたしは気に入らないヤツは殺してしまえ、根絶やしにしてしまえ、みたいなお国柄というか民族性を感じてしまいました。
ほんとに悪い人だったのか知らん、という気持ちがあります。
残酷なのは日本の昔話も同じなんですけどね。
Posted by ヤヤー at 2006年06月13日 14:37
ヤヤーさん、グリム童話は200篇以上あるので、全部となるとかなりマニアックな領域になるのかもしれません。残酷さはどの民話にもあるというのは、興味が沸くというか、人間の根底に惹きつけられるものがるのでしょうか。残酷といえば『子どもたちが豚殺しごっこをした話』なども浮かびます。あまりに残酷だということで、グリムの初版のみに収録されただけで、2版から削除されたそうですが、読むと忘れられないお話だったりします。
Posted by kmy at 2006年06月14日 19:36
『子どもたちが豚殺しごっこをした話』読みたいです。
子どもは残酷というけれど、元来人間って残酷性への欲望というか願望があるのでしょうね。現代社会ではそこのところに目をつぶっていて、見ないフリをしている気がする。癒し系や、やたらに優しさを強調した話がもてはやされているこの頃、こういった剥き出しの、でもシンプルで気持ちいい残酷性に惹かれたりします。
大学の頃近世文学を専攻していたのですが(「雨月」とか)あの頃のお話っていとも簡単に人が死ぬんですよね。即物的に。たぶん時代性というか、命の価値が今と違っていたのでしょう。もっと自然に近かったのだと思います。
長くなってスミマセン。kmyさんの文章を読んでいると、いろいろイメージが湧いてきます。楽しいです。
Posted by Helenaヘレナ at 2006年06月16日 16:46
ヘレナさん、『子どもたちが豚殺しごっこをする話』、それでは次回紹介します。昔話、民話などの類は子どものころから大好きでした。人間のエッセンスのようなものがあるような、そういう気がします。個性のある一人ひとりという主人公ではなく、個性というものを持っていない人間のような……みんな仲良くというよりは、みんな死んでしまった、というお話はインパクトがあります。白雪姫やシンデレラなどの有名な話も中途半端ではない制裁を持っていますし。
命は一瞬で失われるものだという認識がもっと強かったのかもしれない、とヘレナさんのコメントを読んで感じました。(「雨月」のお話も印象に残るお話が多いです)
Posted by kmy at 2006年06月17日 15:59
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/19161578
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック