表紙画像がありませんが、この本、やっぱり井上洋介の世界! 今月一番のお気に入りになりそうです。
のっぺりと塗られた独特の画風。文字も手描きで、まさに「えとぶん井上洋介」と表紙に書いてあるとおり。おじいさんが「おいも」と書かれたおいもしか売っていないおいもやさんで巨大ないも(おじいさんと同じくらいの大きさ)を買い、リュックサックを背負うかのように持ち帰ります。途中で出会う女の子と3匹の動物たちとのやりとりがシュールでナンセンス。素敵。
(この先ネタばれ)
疲れて座っているように見えるおじいさん、女の子から自転車の補助輪をもらいます。補助輪があるとないとじゃ違うみたいですね。補助輪着けた後は休憩していません。続き、ねずみに少し齧らせてあげたときのおじいさん、目が笑っていて嬉しそう。いいことしたって感じなんです。でも次にであったくまも「ぼくにもおいもちょうだい」と言われます。ねずみに齧らせているのを見ていたのでしょう。だから「ぼくにも」というセリフなのだと思います。そう言われるとやらないわけにはいかないか、というおじいさんの表情がちょっと微妙に感じられます。戸惑っているようにも見えます。そして、ここでまさかの展開! くまがおいもを全部食べてしまいます。「いもしょって」の物語はまだ中盤だというのに、いもがなくなってしまい笑えます。この展開で目が離せなくなります。お礼に切り株をもらうのですが、表情も微妙です。どうしたものか……と言っているように感じられるのです。その後出会ったのがうさぎ。このうさぎのセリフ「おじいさん のせて ください ぼく あしを くじいた」が妙に可愛く聞こえるんです。前半の丁寧さと後半のぞんざいな言い切りのミスマッチが好きです。乗せて家まで送ります。うさぎの家がとても可愛い。屋根にうさぎの大きな顔が乗っています。ここで再登場、大きなおいも。お礼にまた巨大なおいもをもらって歩き出すおじいさんは笑顔です。
おじいさんは一言も発しません。そこがまたいいのかな、なんて思います。出会う登場人物たちが自分の言いたいことを言うだけで進んでいく絵本ですが、味のある絵に惹き込まれます。お気に入りはくまがおいもを全部食べてしまうところです。ところで、おじいさんはどこから来て、どこへ行き、おいもはどうなったのか、まったくわからないところがこの絵本の魅力です。井上洋介さんの絵本は終わりもなくはじまりもなく、ずっと続いていくような感じで、楽しいです。まだまだ井上洋介さんの新作がでるといいなあと期待してます。