2006年03月28日

『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』

 220冊もの本を翻訳されている金原瑞人さんの翻訳についての気取らないエッセイ。そもそも最初は翻訳家になる予定ではなく、カレー屋になるはずだったという書き出しからして金原さんの人柄がうかがわれる楽しいエッセイです。
4895000834翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった
金原 瑞人
牧野出版 2005-12

by G-Tools


 翻訳はいかにあるべきかというような堅苦しい論調ではありませんが、翻訳に対する金原さんの考えはしっかりと示されていてとても面白い内容です。
翻訳はあくまでも「間に合わせ」にすぎない。外国語のオリジナルがあって、それを現在の時刻の状況とことばで捉えて、その国のその時代の人びとに提供する一字的な「間に合わせ」なのだ。(P73)

「翻訳の寿命は長くて20年、これを過ぎたものは新しい人が訳し直す方がいい。(中略)翻訳は、ただ単に新しいというだけで、十分にその価値があるのだ。(P77)

 なるほど、ですね。新訳が出るということだけで価値あるのかもしれませんし、実際『チョコレート工場』を読んでみると、柳瀬氏は旧訳で削られた部分を訳されています(映画と新訳で始めて「ホイップ(鞭打ち)クリーム」のしゃれが原書にあることがわかりました)。児童書は古い翻訳が残っていて、幼いころに読んだ訳を子どもに伝えたがる傾向があると金原さんが書いています。確かに! 子どものころ読んで好きだった本を自分の子どもが読んで気に入って欲しいという希望を持つことがあります。しかし、自分が子どものころよりもはるかに本の数は多いものですし、押し付けという形になってはまずいですよね。昔読んだ本の感動はそのまま残るもので、古い訳に愛着を感じる方も多いのでしょう。
 一人称問題についてもいろいろと悩んでおられるようで、“I”をどう訳すのかに苦心し、時には全く出さないように試みてみたり……という裏側も明かしています。
 また、金原さんは共訳で出されているものも多いのですが、そのわけを知って納得! 
四十過ぎたおじさんが、無理して女子高生の一人称を訳すのはやめようと痛感した次第。というわけで、小川美紀さんに共訳をお願いした。なにしろ主人公のウィーツィはこんな女の子<(略)ストロベリー色のリップ、飾りのさがったピアス、ラメ入りの白いアイシャドー(中略←ママ)>。……おじさんの訳す小説じゃない。(P100)

 金原さんというのは主張するタイプの翻訳家ではないですね。いいと思った本を日本語にして読んでもらいたい、そういう雰囲気があふれているエッセイです。
この記事へのコメント
この本はメルマガを単行本化したものなので、ただいま積ん読状態です(笑)。
どの本のことも褒めちぎるのでまず疑って掛かるわたしですが、「面白いものを紹介したい!」という気持ちがとても伝わって来ますよね。
"I"と”you"で悩んだのは『ひかりのあめ』ですね。
わたしは原書のペーパーバック買っちゃいましたよ。
で、確認しました。ありゃわからん。
その直後の朝日新聞で行っているオーサービジットという出張講師で、このことについて語っている記事がありました。
とにかく、自分よりも下の世代に本の面白さを知ってもらいたい一心なのだと思います。
それを伝えたいのです。
だからイマドキの言葉遣いをたいせつにしているとも言えます。

ご本人もいつまでも見た目も考え方もお若い方です。
学生と接しているだけでなくて、あれだけ面白いYA作品を探して読んでいるのですもの。
ということで、やっぱり彼の訳す本、注目している作家は、素通りすることが出来ないのでした。
Posted by ヤヤー at 2006年03月28日 20:27
kmyさん、今ほんとに翻訳にハマってますね。
翻訳はあくまでも「間に合わせ」って、格好いい。
潔い表現だと思いました。
そういえば柴田(えーっと、なんだっけ)先生と、春樹さんの『翻訳夜話』、大好きでした。kmyさんは読んだことあります?
最近読書ってあまりしないので(言ってしまった)こちらの書き込みは、もっぱら生活ネタ(笑)のとき。。

でも、いつも思うのは、kmyさんのところの’お客サマ’は素敵なかたばかりだということ。
コメントのやり取りが楽しみです。
参加したいのですが。。。。。(*^^*)

Posted by あり at 2006年03月28日 22:15
ヤヤーさん、フランチェスカ・リア ブロックの本は先日借りてきて読めずに返却、ということでまだ一冊も読んだことがありません(汗) 金原さんの翻訳本は、ああ、これも!というのが多い気がします。ヤヤーさんと金原さんは本の趣味が似ているようですよね。児童文学評論のメルマガも読んでいますが、堅苦しさや「こうあるべき」というのではなく、本当に柔軟な感覚を持っている方で、そういうところは見習いたいと思います。日本の古典を訳したらというお話を江國香織さんとの対談で出ているのも気になるところです。
それにしても、ヤヤーさんが読んでいる本、凄く多い気がします。見習わなくっちゃ!と思うこのごろ。


ありさん、『翻訳夜話』はチラッと見て、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を読んだら読むぞ〜と思っていたら、『キャッチャー』に挫折(笑)今度『翻訳夜話』のほうから読んでみようと思います。村上さんの翻訳物は絵本くらいしか読んでないですね。
お客さまは素敵、そうなのですね、いろいろと見習うというかまねしたいというか、そういう方が来てくださって光栄です。ありさんももちろん素敵なお客さまです♪
Posted by kmy at 2006年03月29日 15:58
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/15604955
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック