『東京日記』というタイトルから連想される日常の出来事を回想するものとは全くことなり、原因、結果、説明がまるでないと言っていいような、不思議な断片というような連作(?)小説です。主人公(百關謳カかな)が暮らしている東京での日常生活の中に見える、ふと気づくとどこかおかしい、どこか妖しいある場面。それがどういうことだったとか、どうなったとかはありません。こういうことがあったのだけど、どこか夢のようで、でも本当にそんなことがあって……という感じです。
「その四」に丸ビルの話があり、これは分かりやすいというか、不思議さがすっと入る話です。あるときに丸ビルのある場所にいったのだが、丸ビルがない。人に尋ねると「一寸私には解りませんね」と丸ビルが解らないのか、丸ビルがどこにいったのか解らないのか、府に落ちないような返事。そのビルにいた人はどうしたんだろうと思っていたのだけども、翌日訪れると丸ビルがあり、そのビルにいた人は昨日は休んでいたというというそれだけの話。その不可解さに惹きつけられます。内田百閧フ他の短編もこうした雰囲気に溢れていて、なんとなくわからない、ちょっと気味が悪い、どうなったのかよくわからないという感じです。そこが面白いのです。