2006年01月13日

『抗夫』を読んでみた

 『海辺のカフカ』の中で夏目漱石の『抗夫』が出てきます。夏目漱石の本といえば、タイトルと作者とちょっとしたあらすじを教科書や新書などで読んだくらいです。ということで、書店で文庫を買おうと思ったのですが、『こころ』とか『坊ちゃん』は売っていても『抗夫』は売っていませんでした。漱石でも売れ筋じゃないみたい。(単に品揃えの少ない本屋かも?)青空文庫で読もうと思いましたが、長文をPCで読むのはきついので、図書館で借りてみました。岩波の漱石全集の一冊。これがまた、研究的な解説も載っているし、仮名遣いも難しい。検索したらこれが出てきたので、まぁ、これでいいかと思って借りて読んだのです。

 19歳の青年が恋する女性といいなずけの女性との間に悩んだらしく、いっそのこと自分がいなくなってしまえばいい、と思って家を飛び出し、歩いた先の茶店の主人「長蔵さん」が「おまえさん、抗夫にならないかい」と誘うのに従い、抗夫になってやろうと鉱山へと向かっていくのですが・・・・・・とこんな感じで話が始まります。家を飛び出した事情の詳しくはわかりませんが、途中と中で主人公はあーだこーだと悩むのです。そのときの感情はこういうものだった、といちいち説明します。その悩む様子、抗夫になろう、やめよう、やっぱり死のう、でも死ぬんだったらこんな鉱山の穴の中なんか嫌だ、華厳の滝まで行こう、と揺れる様子や、対面した人間に若さ故の虚勢を張って見せるところなどはとても面白いのです。とはいえ、途中途中、「?」と思うことばが出てくるので後にある注をいちいち読んでいたらかなり時間がかかりました。この『抗夫』は鉱山で働く「抗夫用語」(シキ、達磨など)や言い回し(常住坐臥)、当時の社会的なもの(赤毛布、南京米など)が出てきますが、さらさらと音だけで読んでもわからないものです。なので、分厚い文学全集の注はとても役立ちました。
 今普通に読んでいる小説も、100年後には注がついたりするんでしょうか。当時の流行でこういうこと、なんていうのが書かれたりするのでしょうか。こうして残っている文学作品に描かれる心理状況には共感することや、想起することも多くて、「古い小説」という印象は抱きませんでした。主人公が19才のころの出奔を回想して書いているという描き方なので、わたし自身もそのくらいのころの気持ちをまた今思い出して、というような重なりを感じました。若いときってこうだったよね、と思いださせる小説でした。
 このごろ出会ってよかったと思う小説は以前の状況と今の状況とを多層に重ね合わせながら読み進めて、自分の中のファイルを整理しているようなそんな気持ちになります。この『抗夫』も(『海辺のカフカ』もですが)そんな感じでした。

参考
読んだテキスト 『漱石全集5』 岩波書店
青空文庫:『抗夫』(夏目漱石作)
 


posted by kmy at 14:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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