2008年06月30日

『小川未明童話集』

 「赤いろうそくと人魚」で有名な小川未明の童話集。そういえば最後まで読んでいませんでした。童話というと、昔話的な最後に幸せになるような、ほのぼのとした牧歌的明るさを連想させることが多いものですが、実際の「童話」というのは昔話とは異なると感じます。口承的に伝えられたのではなく、作り上げられたもので、表現がやや昔話に近いかもしれませんが、内容は人間の心理に切り込んでいくようなものなのだと、感じました。安房直子さんの作品もこういう雰囲気を持っています。
 小説のように、特定された場所、性格や容姿などが特徴付けられる「キャラクター」を描いてはいません。どこか遠い国、兵士、村人、娘など、読み手の住む場所と交換可能な場所、自分もなりうるかもしれない誰かという登場人物を描くことで、より深く切り込んでくるような印象を受けます。
4101100012小川未明童話集 (新潮文庫)
小川 未明
新潮社 1961-11

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 だから、よりいっそうこの展開にどきどきとし、気づかされ、何か深い後悔や暗い側面が気になってしかたないのではないか、と感じます。切ない、哀しい、そういう気持ちを感じるものが気に入っています。

「眠い町」
 とある不思議な町「眠い町」に来ると、どういうわけか体が疲れて眠くなってしまうといわれ、少年ケーがその町に出かけていきます。案の定、疲れて寝入ってしまいますが、町の主であるじいさんに出会い、この町の秘密を知ることになるのですが――もうこの時代から、ずっと人間は動き続けて疲れ続けてきて、それでもやめない、もうやめれないというところに来ている、眠い町の話もはるか遠くに行ってしまって、それを遠くで眺めるより、ほかになにができるだろうか?と、感じるのです。

「二度と通らない旅人」
 この話は気に入っていて、何度も読んでいます。昔話的な感じのする話で、病人がいるので旅人を泊めてやることもできない、水もやれないと断ったのですが、旅人は病人に薬を置いて行きます。人間の持つ感情で「後悔」というものがあります。今この瞬間にはわからなくとも、後からずっと引っかかってはやまない、しかし、どうにもならない、という感情です。この後悔の念を感じながら、教訓めいた物語ではなく、ただただ、人間の事情による非情さ、そのあとの後悔の念というものを強く打ち出しています。それがたまらなく感じられるこの話が、とても気に入っています。ずっと引っかかってやまないような、そういう気持ちになる話です。

 ああよかった、ということだけでなく、時には苦しく悲しく、そして後悔する――今目の前の出来事を大事に扱っていますか?というメッセージを感じます。「小さい針の音」「黒い人と赤いそり」も何度か読み直しています。ハッピーエンドとはいえないけれども、遠い過去の自分の出来事のように身にしみてくるような気がします。
posted by kmy at 13:46| Comment(4) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この文庫はわたしも持っています。
昔話の再話のようでいて、それとはまた違った趣の物語たち。
賢治ほど牧歌的ではなく、浜田広介のようなあどけなさもなく、どちらかといえば人間のこころの仄暗い部分が描かれている未明の話はすきです。

「眠い町」を読んでいると、じぶんもその不思議な場所にいるような気になります。というか、外を歩いているといつの間にかその町の道を歩いてたりするのかも知れません。

自分のこころの少し怖い部分に気がついてまた怖くなる。
そういうところに惹かれるのだと思います。
ああ、安房さんと近いものがありますね。
Posted by ヤヤー at 2008年06月30日 21:56
ヤヤーさん♪
「人間のこころの仄暗い部分」、確かにそう感じます。
作者の感情をこめずに、読み手に気づかせるように描いていますよね。
こういうことがあったのです、というその語り方で、よりいっそう心に刻む、そういう印象です。
「眠い町」は昔そんな町があって、今は物語の世界ですらもうないという、その突き放した感じが好きです。
取り戻すとか、探すとかではなく、もうなくなってしまった。人間はなくしたものがあり、やり損ねたことがあり、それは取り戻せるものではないという、その冷ややかさが気に入っています。
Posted by kmy at 2008年07月01日 13:06
私もこの本持っているのですが、「赤いろうそくと人魚」しか覚えていません。多分一通り読んだはずなんですが・・・せっかくなので読み返してみようと思います。
Posted by ぴぐもん at 2008年07月03日 21:04
ぴぐもんさん♪
ちょっといい話よりも、ちょっと居心地が悪い気分の話が多いような気がしますが、それが結構気に入っています。
記事に載せた作品は何度か読んでいますが、他のものは読み終わってから忘れてしまった、あまり印象に残っていないものもあります。
機会があれば、ぜひ♪
Posted by kmy at 2008年07月04日 14:36
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